2023年06月
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自動運転車に道路を3Dで表示―ペロブスカイト結晶による新たなライトフィールドセンサー開発 シンガポール

シンガポール国立大学(NUS)は5月11日、これまでにない角度分解能(光学機器が小さな角度距離で離れた物体の点を識別する能力)で、3Dシーンを構築する新たなライトフィールドセンサーを開発したことを公表した。研究成果は、科学誌natureに掲載された。

ほとんどのカメラは2次元の画像しか生成できないが、ライトフィールドセンサーを用いたカメラは、特定の空間の精密な3次元画像を取得することができる。例えば、自動運転車でこの技術を利用することで道路を3Dで表示し、危険性をより正確に判断して、それに応じて速度を調整することなどが可能となる。

NUS化学部のリュー・シャオガン(Liu Xiaogang)教授は次のように従来の技術と、今回開発された技術について説明した。

「一般的なライトフィールドセンサーは、レンズやフォトニック結晶のアレイを使用して、同じ空間をさまざまな角度から撮影した複数の画像を取得しています。しかし、これらの素子を実用化するには、複雑でコストがかかります。さらに従来の技術では、紫外線から可視光線までの波長域の光しか検出できないため、X線センシングへの応用には限界があります」

これに対し、「私たちが開発したセンサーは、80度以上の大きな角度測定範囲、0.015度以下となりうる高い角度分解能、0.002nm~550nmの広いスペクトル応答範囲を備えています。これらの仕様により、より高い深度解像度で3D画像を撮影することが可能になりました」

この新しいセンサーは、優れた光電子特性を持つペロブスカイトナノ結晶を核にしており、X線から可視光線までの励起スペクトルを持っている。研究者らは、この結晶を透明な薄膜基板にパターン形成し、カラー電荷結合素子(CCD)に組み込んだ。入射光がセンサーに当たると、ナノ結晶が励起され、結晶は、光線の当たる角度によってさまざまな色で発光する。CCDは、発光した色を捉え、3D画像の再構成に使用するという仕組みだ。

「ペロブスカイト結晶を透明基板上に高密度にパターン化し、より優れた空間分解能を実現するための、より高度な技術も検討する予定です。また、ペロブスカイト以外の材料を使うことで、ライトフィールドセンサーの検出スペクトルが広がる可能性もあります」とリュー教授は展望を語った。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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