シンガポール国立大学(NUS)は5月22日、NUSの先端2D材料センター(CA2DM)とCBMM社が共同で、従来のリチウムイオン電池の約10倍となる30年の寿命を持つニオブ‐グラフェン電池を開発したことを発表した。
チェン・ツハン教授(中央)ら
電池は、携帯電話、ペースメーカー、電気自動車(EV)などさまざまな現代機器の動力源として重要な役割を担っている。しかし、従来のリチウムイオン電池では、安全性のリスク、寿命の短さ、充電時間の長さといった課題があった。今回、グラフェンをはじめとする2次元(2D)材料研究のイノベーターであるCA2DMと、ニオブ製品・技術のグローバルリーダーであるCBMM社が開発したニオブ‐グラフェン電池はこれらの課題を解決しうるものだ。
ニオブとグラフェンによって作られるこの電池は、長寿命の他、高い安全性、急速充電、高性能、比較的豊富で環境に優しい材料であるニオブを使うことによるサステナビリティといった特徴を持つ。電池は、シンガポール国立研究財団の支援を受け、NUSとCBMM社による3年間で380万米ドルの共同投資により設立されたCBMM-CA2DM先端電池研究所で試験されており、最終プロトタイプが2024年の第1四半期に完成する予定だ。
NUSの先端2D材料センター(CA2DM)の研究者ら
(出典:いずれもNSTDA)
CBMM社のバッテリー部門グローバルヘッドであるロジェリオ・リバス(Rogerio Ribas)氏は「新しいニオブ‐グラフェン電池は、寿命が長いため、従来のリチウムイオン電池と比べてコストを大幅に削減できる上、超高速充電機能も備えています。また高温でも爆発する心配がなく安全性も高い点が特徴です」と語る。
NUS副学長で、CA2DMの理事会会長のチェン・ツハン(Chen Tsuhan)教授は「持続可能で高性能なエネルギーソリューションへのニーズが高まる中、CBMM−CA2DM先端電池研究所は社会への応用が期待される企業と研究との強力なパートナーシップを示すものです」と研究所への期待を述べた。
研究所は、今後さまざまな材料を用いて、より高度で新しい電池を試験・作成し、地域の研究機関や大学、産業界と連携して電池のフロンティア技術を開発することを目標としている。また、研究所内には産業用スペースが設けられ、企業の商業的ニーズを満たすために電池のプロトタイプの開発・テストも可能になる予定だ。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部