シンガポール国立大学(NUS)のがん科学研究所(CSI Singapore)の研究チームは、転写因子TOX2と発がん性リン酸化酵素であるPRL-3について、ナチュラルキラーT細胞リンパ腫(NKTL)に関与していることを発見し、これらがNKTL治療の新規標的となる可能性を示したことを発表した。5月29日付け。研究成果は学術誌Molecular Cancerに掲載された。
(提供:NUS)
NKTLは、エプスタイン・バーウイルスに関連する進行性の非ホジキンリンパ腫で、進行すると治療が難しいものとして知られている。アジアやラテンアメリカで流行している一方で、ヨーロッパや北米ではあまり見られない。現在、放射線療法と化学療法の併用が標準的な治療法となっているが、再発率が高く、重篤な副作用を伴うことも少なくない。NKTLの進行につながる分子メカニズムの解明と、新たな標的治療戦略の開発が求められている。
CSIのチン・ウィー・ジュ(Chng Wee Joo)教授と三田貴臣准教授、そしてデューク-NUS医学部(Duke-NUS Medical School)のオン・チュン・キアット(Ong Choon Kiat)博士らによる研究チームは、NKTL患者において転写因子TOX2が異常に増加し、NKTLの増殖と転移を引き起こすとともに、他の数種類のがんの生存と転移のキープレーヤーとして知られる発がん性リン酸化酵素であるPRL-3の過剰産生をもたらしていることを発見した。さらに、細胞株と大規模な患者の腫瘍サンプルを用いた研究によりこの結果を検証している。この研究成果はTOX2とPRL-3がNKTLに関与することを示した最初のものだ。
チン教授は「新たな治療法が求められているNKTLにおいて、TOX2とその下流のPRL3という新規治療標的を特定することができました」と述べている。現在TOX2特異的な阻害剤は存在しないが、研究グループはTOX2およびPRL-3を標的とする新規薬剤を試験中だ。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部