シンガポール国立大学(NUS)の研究者らが、高温に耐え、製作も簡単で革新的な木製ロボットグリッパーを開発した。6月28日付け発表。研究成果は学術誌Advanced Materialsに掲載された。
タン・スウィー・チン(Tan Swee Ching)助教授(中央)ら研究チーム
多くのロボットグリッパーは高温で溶ける柔らかいプラスチックか、硬くてコストがかかる金属で作られている。NUSの研究チームは中国の東北林業大学の研究者らとともに、高温環境でも使用可能で、優しいタッチを維持できる木製ロボットグリッパーを開発した。このグリッパーは環境中の水分、温度、照明の変化によって駆動するため、エネルギー消費も抑えることができる。
木製グリッパーは薄さ0.5mmのカナダ産カエデの木片で製作されている。木片は塩化ナトリウムで処理されリグニンが取り除かれ、大きな孔はポリピロールというポリマーで埋められ、熱や光を吸収しやすくなっている。また、吸湿のために新しいニッケルベースの吸湿ゲルを木片の片面に塗布、もう一方の面には疎水性フィルムが貼られている。その後、木片を特殊な型を使って70℃でグリッパーの形に整形している。
木製ロボットグリッパー
(提供:いずれもNUS)
グリッパーは高湿度にさらされると、吸湿性ゲルが水分を取り込み伸びることで徐々に外側に開く。70℃を超える高い温度にさらされると、内側に曲がり始め、200℃で最大の曲げを達成する。また、疎水性フィルム層を光源に向け、光を照射しグリッパーの表面温度が約42℃まで上昇すると、吸湿ゲルが水分を失い内側に曲がり始める。この木製グリッパーは、100回の作動サイクル後も無傷で、長時間の使用に耐える安定性と堅牢性が実証されている。
NUSデザイン工学部材料科学工学科の研究チームを率いるタン・スウィー・チン(Tan Swee Ching)助教授は、「木材は優れた機械的特性を持ち、自然な変形が可能です。ありふれた材料であり、比較的安価に使用できます。私たちの研究では、木材をベースとしたロボットグリッパーが、従来のアクチュエーターやマニピュレーターの限界を克服できることを示しました」と説明した。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部