シンガポール国立大学(NUS)とシンガポール科学技術研究庁(A*STAR)材料科学工学研究所(IMRE)の研究者らが、創傷治療のモニタリングを目的とした、電池不要で紙のような人工知能(AI)対応センサーパッチ「PETAL(Paper-like Battery-free In situ AI-enabled Multiplexed)」を開発した。6月26日付け発表。研究成果は学術誌Science Advancesに掲載された。
慢性創傷や、やけどを負った後の病理学的瘢痕(はんこん)は合併症の危険性があるため、創傷の状態をタイムリーかつ効果的にモニタリングすることは治療において重要である。現在、創傷の検査は目視で行われており、また診断には時間のかかる細菌培養を行う必要があるため、タイムリーな検査を行うことができない。さらに、傷口を覆う保護テープを頻繁にはがすため感染のリスクを高め、患者にさらなる苦痛や外傷を与える可能性もある。
ベンジャミン・ティー(Benjamin Tee)准教授(後方左)ら研究チーム
この課題に対処するため、研究者らは低コストで汎用性が高く、状況に応じてカスタマイズが可能なセンサーパッチPETALを開発した。このパッチは5枚の花びらを持つ花の形にパターン化された流体パネルで構成され、それぞれの花びらが比色センサーとして機能する。流体パネルの中央にある開口部は、傷から湿潤液を集め、センシング領域に均等に分配する。傷口の温度、pH、トリメチルアミン、尿酸、水分といったバイオマーカーの組み合わせを測定することで、15分以内に患者の創傷治癒(ちゆ)状態を判定することができる。
電池不要で作動し、センサーを傷口からはがすことなく、携帯電話で画像を撮影することで、AIアルゴリズムで分析され、患者の治癒状態を判断することができる。ラボレベルのテストでは慢性創傷や熱傷の治癒と非治癒の鑑別において97%という高い精度を示した。医療現場以外でも、迅速で低コストの創傷ケア管理ができる可能性がある。
電池不要で紙のようなAI対応センサーパッチ「PETAL」
(提供:いずれもNUS)
NUSのデザイン工学部とNUSの医療技術研究所(iHealthtech)のベンジャミン・ティー(Benjamin Tee)准教授は、「定期的に創傷をモニターできるため、適切な医療介入が可能となり、有害な合併症や瘢痕化を防ぐことができます」と話した。この発明は国際特許を申請しており、研究者らは次にヒトの臨床試験に進む予定。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部