2023年08月
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口の内側に貼り痛みのない薬物伝達フィルムを開発 シンガポール

シンガポール国立大学(NUS)の研究者らは、口の内側の粘膜に貼り付け、薬物を決まった期間中、血流に効率的に放出する新しい口腔用フィルムPharLyfe+を開発した。7月4日付け発表。

チャン・スイ・ヨン(Chan Sui Yung)准教授(中央)ら研究チーム

錠剤や注射などの従来の薬物投与方法は、特に幼児や高齢者にとっては苦痛や不快感を伴うものであった。NUS理学部薬学科名誉フェローのチャン・スイ・ヨン(Chan Sui Yung)准教授率いる研究チームは痛みがなく、効率的で目立たない薬物投与を可能にする、使いやすい口腔内フィルムを開発した。

この技術は、現在、チャン准教授と彼女の学生であるタン・ポー・レン(Tan Poh Leng)博士とチュア・チー・シャン(Chua Qi Shan)女史が設立したNUSのスタートアップ企業であるファーライフプラス(PharLyfe+)社を通じて商業化されている。このスタートアップは、NUS卒業生研究イノベーションプログラム(GRIP)の支援を受けている。

NUSの研究者が開発した口腔内フィルムは使いやすく、痛みがなく、効率的かつ目立たない薬剤投与を可能にするという

この口腔内フィルムは簡単に製造が可能だ。各フィルムは、特定の薬剤のために調合され、成分がカスタマイズされたプレミックスで構成されている。これらの成分を薬液に加え、必要な薬剤量を正確にピペットで型に流し込む。出来上がった混合物は、軽量オーブンを使って乾燥させる。フィルムは非常に薄くて丸く、10セント硬貨サイズと20セント硬貨サイズの2種類があり、持ち運びや配布、医療機関での大量保存に便利である。さらに、フィルムは水分含有量が少ないため、配合された液体医薬品に比べて保存期間が長く、患者や医療提供者にとって信頼できる選択肢となり得る。さらに、この投薬方法は、窒息、誤嚥、拒絶反応のリスクを軽減する。

チャン准教授は、「この口腔内フィルムは、患者中心の個別化医療における重要なマイルストーンとなります。このフィルムは非常に使いやすいので、患者は自宅にいながらにして、尊厳を保ち自立した治療管理ができるようになります。私たちは、患者ケアと治療成績を向上させるために、医療提供者と協力して口腔内フィルムを開発・応用していくことを楽しみにしています」と語った。

研究チームは、軽量オーブンを使用してフィルムを乾燥させた後、持ち運びに便利なようにコンパクトなパッケージにフィルムを密封する
(提供:いずれもNUS)

研究チームは、この革新的なアプローチについて仮特許を申請した。シンガポールとアメリカでの薬事申請に向け、解毒剤、一般薬、ペット用薬など、さまざまな薬用のフィルム製品の開発と評価を行っている。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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