シンガポール国立大学(NUS)のデザイン工学部(CDE)の研究者らが、情報ストレージの新しいパラダイムを切り開く革新的な生物学的カメラを開発した。7月11日付け発表。研究成果は学術誌Nature Communicationsに掲載された。
世界のデータ総量(グローバル・データスフィア)は、2018年の33ZBから2025年には175ZBに大きく増大すると予測されている。そのため、従来のデータストレージの枠を超えた環境に優しい代替ストレージの探求が行われており、その1つとして並外れた記憶容量と安定性をもつDNAを使うというアイデアが近年注目されている。
ポー・チュエ・ルー(Poh Chueh Loo)准教授(右)ら研究チーム
(提供:NUS)
今回、CDEのポー・チュエ・ルー(Poh Chueh Loo)准教授率いる研究チームが開発した生物学的カメラBacCamは、生細胞の生物学的メカニズムを利用してデータを符号化し保存するものだ。DNAに直接画像を符号化して保存するという大きなブレークスルーであり、デジタルカメラを彷彿とさせる情報保存の新しいモデルとなる。
「細胞内のDNAを未現像の写真フィルムと想像してみてください。オプトジェネティクス(光で細胞の活動を制御する技術)を使って、DNAに光信号を転写することで画像を撮影することに成功しました」とポー准教授はシステムを説明した。
次に、写真ラベルのようなバーコード技術を用いて、研究者たちは撮影した画像に印をつけ、識別できるようにした。保存された画像を整理、分類、再構成するためには、機械学習アルゴリズムを用いている。これらはデジタルカメラのデータ取り込み、保存、検索のプロセスを反映している。DNAデータ保存の以前の方法と比較して、研究チームの革新的なシステムは、容易に再現可能で拡張性があるという。
「この方法は、生物学的システムとデジタル・デバイスの統合における大きなマイルストーンです。DNAとオプトジェネティクス的回路の力を利用することで、われわれは初の生きたデジタルカメラを作り上げました。我々の研究は、DNAデータストレージのさらなる応用を探求するだけでなく、既存のデータキャプチャ技術を生物学的フレームワークに再構築するものでもあります。これにより、情報の記録と保存における継続的な技術革新の基礎が築かれることを期待しています」とポー准教授は研究の重要性を語った。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部