シンガポール国立大学(NUS)の研究者らは、世界的に最も一般的な血液がんである、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)患者において、あるがん遺伝子の特定の組み合わせががんの増殖と生存をサポートし、治療抵抗性や、好ましくない転帰を引き起こすこと発見した。7月14日付け発表。研究成果は学術誌Cancer Discoveryに掲載された。
定量的免疫蛍光を用いたマルチスペクトル顕微鏡の方法は、がん遺伝子を同時に検出できる最先端の技術という (Image created with BioRender)
(提供:NUS)
一般的にがん細胞では、複数のがん遺伝子を発現していることが多い。しかし、がん遺伝子は通常1つずつ研究されているため、がん遺伝子が複数発現したがん細胞が患者の生存にどのような影響を及ぼすかについてほとんど知られていない。この謎を追求するためアナンド・ジェヤセカラン(Anand Jeyasekharan)助教授率いるNUSのがん科学研究所(CSI Singapore)の研究チームは、DLBCLを対象に、がん遺伝子の協力関係について研究を行った。
現在の臨床ではDLBCLの高リスク症例を同定するために、MYC、BCL2、BCL6の3つの特異的がん遺伝子を測定する免疫組織化学的手法が用いられている。しかし、この方法では3つのがん遺伝子を同時に検出することができない。この課題を解決するため、研究チームは、定量的免疫蛍光を用いたマルチスペクトル顕微鏡を使用して、これらのがん遺伝子を同時に染色、画像化、定量化した。
その結果、研究チームは、MYCとBCL2が陽性でBCL6が陰性の細胞の割合が高い患者では、生存率が最も低いことを発見した。これは、BCL6が、MYCとBCL2の両方のがん遺伝子を持つ攻撃的な細胞を抑制することにより、保護しているからだと結論づけ、そのメカニズムについても特定した。研究チームはまた、免疫組織化学のデータを用いて、この特定の有害ながん遺伝子の組み合わせを持つ細胞の割合を予測する数式を開発した。
ジェヤセカラン助教授は、「臨床的関連性を理解するためには、がん遺伝子の同時検出が不可欠であるという点で、他のがん種にも適用可能なパラダイムを示唆する可能性があります」と研究の意義について語った。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部