2023年09月
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肝臓病が心血管疾患を引き起こすメカニズムを発見 シンガポール

シンガポールの南洋理工大学(NTU)は7月25日、NTUの研究者らが肝臓病患者において心血管疾患発症リスクが高い理由を発見したことを発表した。研究成果は学術誌EMBO reportsと、NTUの研究・イノベーション誌Pushing Frontiersに掲載された。

(出典:NTU)

非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)は、肝臓に脂肪が蓄積することで起こる一般的な慢性疾患だ。東南アジアでは、人口の40%が罹患しているとされている。この病気は肝組織の瘢痕化や肝がんにつながる可能性があるが、患者の死因のトップは心血管系疾患となっている。

NTUの研究チームはNAFLDと心血管疾患がどのように関係しているかの調査を行った。NAFLD患者と健常者から提供されたサンプルから培養した血管細胞を調べたところ、NAFLD患者ではケモカインと呼ばれるタンパク質のレベルが高くなっていることが分かった。ケモカインは通常、T細胞などの免疫細胞を感染部位に引き寄せ、T細胞が感染因子と戦うべき場所を示す機能を持っている。血管細胞においてケモカインの濃度が異常に高い場合、T細胞を血管壁に意図せず引き寄せ、炎症を引き起こし、血管を損傷する可能性が考えられる。

また、研究チームはNAFLD患者において、血管傷害の指標となる血流内に流出した血管内膜の細胞の循環数が3倍多いことも明らかにした。炎症と血管損傷の結果、NAFLD患者は血栓や心血管疾患を発症するリスクが高くなると考えられる。

研究を率いたNTUのリーコンチアン医科大学のクリスティン・チャン(Christine Cheung)准教授は、「NAFLDと血管の炎症の関連性を理解することは、疾患管理の改善につながるかもしれません。例えば、肝疾患の治療を受けている患者が血管の健康診断を受けることなどで、将来の血管合併症を予防できる可能性があります」と述べている。研究チームは現在、炎症性疾患や変性疾患を持つ人の血管障害を早期に発見するためのバイオマーカーの開発に取り組んでいる。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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