シンガポール国立大学(NUS)は8月2日、生物科学部の研究者らが、自己組織化する精密で複雑なナノ構造をもつ人工水路を開発し、より効率的な工業用水の浄化が可能になることを発見したと公表した。研究成果は学術誌Chemに掲載された。
NUSの研究チームは、フランス国立科学研究センター(CNRS)と共同で、細孔構造に自己組織化できる特殊なタンパク質模倣体の合成に成功した。タンパク質模倣体はオリゴ尿素フォルダマーと呼ばれ、脂質膜に取り込まれることで、イオンを拒絶し、水を選択的に輸送する構造となり、これまでにない新しい人工水路となる。工業用浄水法のエネルギー効率改善の期待もできる。
現在の浄水法には逆浸透膜や膜蒸留技術が使われている。逆浸透膜を使う方法では塩分や汚染物質除去のために高い圧力を必要とし、エネルギー集約的なものとなっている。今回開発した方法は、オリゴ尿素フォルダマーにより形成された細孔の水透過性が比較的高いことから、浄水に必要なエネルギーを削減できる可能性が示唆されている。
今回の技術関連の研究分野は、全ての生きた細胞の細胞膜に存在する水チャネルであるアクアポリンを用いた膜製造として取り組まれてきた。天然のアクアポリンの構造は複雑であるため、浄水膜として使用するために十分な量合成するためには高価で時間のかかるプロセスとなっていた。一方でオリゴ尿素フォルダマーは短い分子鎖で、疎水性相互作用と静電的相互作用によって自己集合し、高い空隙率と水分子選択性を持つ人工水路を形成できる。
研究チームを率いるプラカシュ・クマール(Prakash Kumar)教授は、「この新しい人工水路の発見は、他の技術のように大きな分子構造の中に孔があるのではなく、孔を持たない個々のフォルダマー分子が集合したときのみ水選択性の孔が出現するという点が重要です。また、高い水透過性とタンパク質分解に対する体制により、工業用水浄化アプリケーションの優れた候補となります」と研究の意義を説明した。研究チームは今後、大きな膜にフォルダマーを適用し、工業用浄水設備でその効率を試験する予定だ。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部