シンガポール国立大学(NUS)の研究者らは、自然現象からヒントを得て、既存品の課題を解決する新しい空気弾性圧力センサー「eAir」を開発した。8月18日付け発表。研究成果は学術誌Nature Materialsに掲載された。
従来の圧力センサーの課題はその精度である。一貫した測定値を提供するのが難しく、同じ圧力でも結果がばらつくことがあったり、圧力の微妙な変化を見落としたりすることがあった。また、一般的に柔軟性のない材料で作られている。
NUSデザイン・エンジニアリング学部およびNUSの医療技術研究所のベンジャミン・ティー(Benjamin Tee)准教授らの研究チームは、こうした課題に対処するため、「ハスの葉効果(葉表面がもつ微細な撥水構造により、水滴が転がり落ちる)」を模倣し、センシング性能を大幅に向上させる圧力センサーを設計した。
「このセンサーは、小型の容量メーターのようなもので、微小な圧力変化を検知することができます。これは、水滴の非常に軽いタッチに対するハスの葉の感度からヒントを得ました」とベンジャミン氏は説明する。
eAirには革新的な空気バネが採用されており、閉じ込められた空気層が、センサーの液体と接触することで気液界面を形成する。外部圧力が上昇すると、この空気層が圧縮される。表面処理により、センサー内の界面が摩擦のない動きをし、圧力を正確に反映する電気信号の変化を引き起こすというものだ。
eAirは数ミリと比較的小型で、既存の圧力センサーに匹敵する精度をもち、腹腔鏡手術やロボット手術など低侵襲手術や埋め込み型センサーに応用できるという。スマート圧力センサーが提供する触覚フィードバックは、低侵襲手術の分野に革命をもたらす可能性がある。例えば、保持している組織の硬さといった情報は、外科医が手術中に慎重な判断を下すための重要な情報源となるからだ。触覚フィードバックが不可欠な腹腔鏡手術では、eAirを取り入れることで、より安全な手術が可能になり、最終的には患者の回復と予後を向上させることができる。
さらに、eAirは、頭蓋内圧のモニタリングプロセスにもつながると考えられている。低侵襲的なソリューションを提供することで、この技術は、重度の頭痛から潜在的な脳損傷に至るまで、脳関連疾患の管理を変える可能性がある。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部