シンガポールの南洋理工大学(NTU)の研究者を中心とする国際研究グループが、前回の氷河期以降の海面に関するデータの分析に基づき、今後30年以内に海面上昇によって沿岸の生息地が再び壊滅的な打撃を受ける可能性があることを明らかにした。8月31日付け発表。研究成果は、学術誌Natureに掲載された。
(出典:NTU)
NTUの地球天文台(EOS)のベンジャミン・ホートン(Benjamin Horton)教授とティモシー・ショー(Timothy Shaw)博士の共著の研究は、オーストラリア、シンガポール、ドイツ、米国、英国、香港の17の研究機関の国際研究チームにより進められた。
1万7000年前は、海面が現在より約120m低かったため、シンガポールからインドネシアやフィリピン、ドイツから英国、ロシアから米国、オーストラリア本土、タスマニアまで、人が歩いて行くことができたとされる。しかし、最後の氷河期が終わると、気温が上昇し、平均して1世紀で1mも海面が上昇した。この結果、沿岸の生息地は世界的に壊滅的な打撃を受け、自然がその急激な損失から回復するのに数千年を要した。研究チームは、温暖化レベルがパリ協定の目標値を上回れば、同じような規模の大災害が再び起こるだろうと述べた。
科学者たちは、マングローブ、沼地、サンゴ礁、サンゴ島などの沿岸生息地は、海岸線を保護し、炭素を固定し、幼魚を育成し、何百万人もの沿岸住民を維持するために不可欠であると述べている。なお、パリ協定では、今世紀の世界的な気温上昇を産業革命以前の水準から2℃を大幅に下回る水準に抑え、気候変動の脅威に対する世界的な対応を強化するという目標が掲げられており、気温上昇をさらに1.5℃に抑える努力を追求することについても言及されている。
EOSは現在、シンガポールのマングローブとサンゴ礁の生存閾値と生態学的転換点を初めて定量化している。この情報を使って、自然ベースの解決策の長期的な実行可能性を評価する。このプロジェクトは海洋気候変動科学(MCCS)プログラムの助成を受けている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部