タイ国立ナノテクノロジー研究センター(NANOTEC)が、ミドリイガイの殻から高価値製品を生み出すプロジェクトを開始し、紙用の撥水コーティング材の開発に成功した。吸油材の開発にも取り組んでいる。同国のチュラロンコン大学およびリニュー・イノベーション社(Renew Innovation Company Limited)との共同開発。タイ国立科学技術開発庁(NSTDA)が9月18日付で発表した。
ミドリイガイはタイにおいて経済的に重要な水生動物で、2022年には約5万トンも生産され、かなりの収入源となっている。一方で、その殻は環境問題となっている。この問題を解決するために、タイ国家研究評議会(NRCT)の支援を受けて、プロジェクトが開始された。NANOTECのレスポンシブ・マテリアル・ナノセンサー研究グループのチュティパーン・ラートヴァチラパイブーン(Chutiparn Lertvachirapaiboon)博士によると、研究チームはミドリイガイの殻の成分の95%以上を占める炭酸カルシウムに注目し、その工業的応用に取り組んでいるという。
最初に開発に成功したのは、紙の耐水性を高める撥水コーティング剤だ。この材料は、輸入されているセルロースベースの撥水コーティング剤の使用量を減らし、製造コストを大幅に削減することができる。また、このバイオベースの撥水コーティング剤をパッケージに使用することで、タイのメーカーが環境規制の厳しい欧州連合(EU)市場へ参入することも想定される。
(出典:いずれもNSTDA)
炭酸カルシウムの油吸収特性を生かした油吸収スポンジと油除去洗浄スプレーの開発も進められている。研究チームは吸油剤のプロジェクトの資金を確保するため、政府機関と調整中だ。
一方、研究チームは、食品産業や宝飾産業で廃棄されているアコヤガイの殻の炭酸カルシウム抽出にも取り組んでいる。アコヤガイから抽出した炭酸カルシウムは、マイクロプラスチックの代替品として洗顔料に使用したり、歯磨き粉の有効成分であるハイドロキシアパタイトに変えたりすることが可能だ。
産業廃棄物を新たな有用製品に変換するこれらのプロジェクトはタイが提唱するBCGエノコミー(バイオ・循環型・グリーンを重視する新経済モデル)の一例となる。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部