シンガポール国立大学(NUS)の 研究者らが、圧迫などの機械的ストレスに強いメカノレジリエントがん細胞を特定した。このがん細胞は転移しやすく、増殖しやすく、悪性度が高く、化学療法薬に対する感受性も低いことも分かった。9月22日付発表。研究成果は学術誌Advanced Scienceに掲載された。
(提供:NUS)
がん細胞の強力な転移能力は治療を困難にさせる要因の1つであり、メカニズムが複雑なため、そのプロセスの解明には至っていない。NUSデザイン工学部生物医学工学科と医療技術研究所(iHealthtech)のリム・チュイ・テック(Lim Chwee Teck) 教授が率いる研究チームは、体の中にある細胞よりも細い毛細血管を、がん細胞がどのように通り抜けるのかについて解明するために新しい実験方法を考案した。
異なるがん細胞株を一連の小さな毛細血管サイズの狭窄部に強制的に通した結果、大半のがん細胞は破裂し死滅したが、一部のがん細胞株の小さな集団が比較的無傷で生き残ったことが観察できた。生き残ったがん細胞を分析したところ、元のがん細胞とは異なる特徴を持っており、増殖能力の高さは、核膜タンパク質、核の硬さ、自己修復能力などの特定の性質と関連していることを発見した。
これらの生き残ったがん細胞を、メカノレジリエントがん細胞と名付け調査したところ、細胞の生存に不可欠なDNA損傷修復機構が通常よりも強化され、より活性化していることが分かった。また、これらの細胞は悪性度が高く、増殖能力も高く、化学療法薬に対する感受性も低かった。これらのがん細胞における遺伝子発現プロファイルの変化が、病気の予後や患者の転帰の悪さに関連していることが示された。
さらに、がん細胞が機械的ストレスにさらされることと、転移の発症との間には関連性があり、がん細胞への機械的ストレスが生存がん細胞の増殖能力と薬剤耐性を獲得する一因となる可能性があることを初めて結論づけた。研究者らは今後、メカノレジリエントがん細胞の分子特性を理解し、バイオマーカーを同定するなどを通して、がんの新規診断法の開発に取り組む予定だ。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部