シンガポール国立大学(NUS)傘下のシンガポールがん科学研究所(CSI Singapore)の研究者らが、がん発生経路の脆弱性を発見し、高リスク骨髄腫の治療戦略に革新をもたらす可能性があることを発表した。9月12日付。研究成果は、学術誌Cancer Researchに掲載された。
骨髄腫は2番目に多い血液がんである。特に高リスク亜型であるt(4;14)転座多発性骨髄腫(MM)は、症例の15~20%を占め、予後不良で、全生存期間が短いことが知られている。また、t(4;14)骨髄腫で重要な調節異常遺伝子は、薬剤では標的化できないという課題がある。
「我々の研究は、この課題にアプローチすることを目的としています。酸素と栄養が欠乏した骨髄微小環境に対する骨髄腫の代謝リプログラミングに光を当てるものです。t(4;14)骨髄腫の侵攻性と治療抵抗性を引き起こすヒストンメチル化酵素NSD2のエピゲノムとメタボロームを探索することで、治療戦略に革命をもたらす可能性のある代替的な脆弱性を探し出しました」と、研究を率いたウィー・ジュ・チョン(Wee Joo Chng)教授は語った。
研究チームは、NSD2がPKCαの活性化を通じて解糖を亢進させ、過剰な乳酸の産生につながることが、悪性腫瘍の増殖を引き起こし、免疫調節薬に対する反応を低下させることを発見した。この発見は、骨髄腫の治療を改善する潜在的な標的を提示するものである。
今後、チョン教授らは、研究結果を活用して、t(4;14)骨髄腫の治療法の解明や遺伝的に高リスクの他の骨髄腫サブタイプに対するアプローチについて研究する予定だ。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部