2023年11月
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自己修復可能な液体金属回路を開発―ウエアラブルデバイスへ応用 シンガポール

シンガポール国立大学(NUS)は、傘下の医療技術研究所(iHealthtech)の研究チームが、ウエアラブルデバイス用の柔軟で壊れにくく、自己修復可能な回路を作るために、新しい液体金属材料の開発に成功したことを明らかにした。10月2日付。研究成果は、学術誌Advanced Materialsに掲載された。

リム・チー・テック(Lim Chwee Teck)教授ら研究チーム

二層液体-固体導電体(BiLiSC)と呼ばれる新材料は、導電性を大幅に低下させることなく、元の長さの22倍まで伸びることができる。この電気的、機械的特性は、これまでに達成されたことがなく、ヒューマン・デバイス・インターフェースの快適性と有効性を向上させ、ヘルスケア用ウエアラブルデバイスやその他のアプリケーションでの使用の可能性を広げるものだ。

iHealthtechの所長で研究チームのリーダーであるリム・チー・テック(Lim Chwee Teck)教授は、「私たちは、堅牢な性能と機能性を備え、壊れにくい回路を必要とする次世代のウエアラブルデバイス向けにこの技術を開発しました。BiLiSCを使用した液体金属回路により、これらのデバイスは大きな変形に耐えることができ、さらには自己修復して電子的および機能的な完全性を確保することができます」と話した。

二層液体-固体導電体(BiLiSC)を使用した液体金属回路により、ウエアラブルデバイスが大きな変形に耐え、自己修復して電子的および機能的な完全性を確保できるという

BiLiSCは2層構造になっており、1層目は自己組織化された純粋な液体金属で、高ひずみ下でも高い導電性を発揮し、電力伝送時のエネルギー損失や信号伝送時の信号損失を低減する。2層目は液体金属微粒子を含む複合材料で、亀裂や裂け目が生じると、微粒子から流れ出た液体金属が隙間に流れ込み、ほぼ瞬時に自己修復して高い導電性を保持することができるという。研究チームは、この技術革新が実用化できるよう、拡張性が高くコスト効率の高い方法でBiLiSCを製造する方法を発見した。

NUSの研究者によって開発された新しい導電性と伸縮性のある「スーパーマテリアル」は、亀裂や切り傷をほぼ瞬時に修復し、導電性を維持することができる
(提供:いずれもNUS)

実証実験では、相互接続を使用したロボットアームは、圧力の微小な変化を素早く検知し反応した。さらに、ロボットアームの曲げやねじりの動きは、BiLiSC以外の材料で作られた別の相互接続と比較して、センサーから信号処理ユニットへの信号伝送を妨げなかった。

研究チームは現在、BiLiSCの改良版として、テンプレートを使わずに直接印刷できるシステムの開発に取り組み、さらなるコスト削減、そしてBiLiSCの製造精度の向上を目指している。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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