2023年11月
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糖尿病の創傷を3倍早く治す磁性ゲル開発―下肢切断予防に期待 シンガポール

シンガポール国立大学(NUS)は、国際的研究機関の研究チームと共同で、糖尿病の合併症の1つ、創傷を3倍早く治す革新的な磁性ゲルを開発したと発表した。10月19日付。研究成果は学術誌Advanced Materialsに掲載された。

アンディ・テイ(Andy Tay)助教授(中央)ら研究チーム

現在、世界では5億人以上が糖尿病を患っており、毎年、世界中で約910万~2,610万件の糖尿病性足潰瘍(最も一般的で治療が困難な創傷の1つ)が発症している。シンガポールは、糖尿病による下肢切断が1日平均約4人とその割合が世界的に最も高い国の1つである。この世界的な医療課題に対処するため、NUSの研究チームは革新的な磁気創傷治癒ゲルを開発した。

皮膚細胞と磁性粒子を含むハイドロゲルをあらかじめ包帯に塗布し、ワイヤレスの外部磁気装置を使用して皮膚細胞を活性化させるものだ。実験室でのテストでは、糖尿病の傷が従来のアプローチよりも約3倍早く治癒することが示された。さらに、この技術は火傷のような複雑な創傷を幅広く治療できる可能性を秘めている。

磁性ヒドロゲルを塗布した包帯を傷の上に置き、外部装置を使用して傷の治癒プロセスを促進する
(出典:いずれもNUS)

研究は、シンガポールの科学技術研究庁(A*STAR)と南洋理工大学(NTU)、台湾の中山大学、中国の武漢理工大学の科学者らと共同で行われた。

この研究を率いた、NUSデザイン・エンジニアリング学部・NUS医療技術研究所のアンディ・テイ(Andy Tay)助教授は、「従来のドレッシング材は2、3日ごとに交換をする必要があり、莫大なコストがかかるだけではなく、患者にとっても不都合がありました。今回開発した磁性ゲルは、糖尿病性創傷に関連する複数の重要な因子をターゲットにしており、創傷部位のグルコースレベルの上昇を管理し、創傷付近の休眠状態の皮膚細胞を活性化することで創傷内の破壊された血管網を修復します」と治療の効果について説明した。

特別に設計された創傷治癒ゲルには、米食品医薬品局(FDA)が承認した2種類の皮膚細胞-ケラチノサイトと線維芽細胞、そして微小な磁性粒子が配合されている。外部装置から発生させた動的磁場と組み合わせると、ゲルの機械的刺激が真皮の線維芽細胞をより活性化させる。

今回の手法では、穏やかな機械的刺激を加えることによって、残った皮膚細胞が鍛えられ、治療が促進されると考えられている。研究者らは、この技術をさらに改良し、臨床パートナーとも協力し、糖尿病のヒト組織を用いてゲルの有効性をテストする予定。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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