シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)は、傘下の研究機関と民間パートナーが協力して、電気自動車(EV)バッテリーの試験・分解ラインを新設することを発表した。10月18日付。
発表は、アジア太平洋産業変革(ITAP)2023のイベント中に行われた。A*STARの再製造技術開発センター(ARTC)、シンガポール製造技術研究所(SIMTech)、材料科学工学研究所(IMRE)、国立計量センター(NMC)、ハイパフォーマンス・コンピューティング研究所(IHPC)といった研究機関が、バッテリーの再製造プロセスやシステム・ソリューションを開発し、バッテリーの循環型経済を構築する。
交通機関の電動化に伴い、使用済みのEVバッテリーを持続的に管理する必要性が高まっている。バッテリーの不適切な廃棄は、人の健康や環境に脅威をもたらす可能性があり、またバッテリー製造に使用される原材料の需要も高まっている。リサイクルのためには、バッテリーの分解が必要であるが、手作業のため労働集約的であり、場合によっては残留電力による事故の可能性もある。
A*STARのARTC内に設置されたラインは、自動化、ロボット工学、インテリジェント・ビジョン検査、診断などのインダストリー4.0技術を活用し、EVバッテリーの分解に関する現行の方法を改善する。具体的には、目視検査やファスナーの取り外しなど、分解工程の一部を自動化することで、危険性の高い作業を減らし、工程を推定50%スピードアップすることができる。また、バッテリーの健全性(State-of-Health、SOH)をより迅速かつ正確に測定する技術も特徴としている。このラインでは、現在7時間かかる作業を30分程度に短縮できる。
この取り組みは世界的なコンサルタント会社であるマッキンゼー・アンド・カンパニー(McKinsey & Company)社と協力して行われる。他にもEVバッテリーの取り扱いの新標準の作成、拡張現実(AR)を使った従業員のサポートシステムなどが開発される予定だ。
ARTC CEOのデビッド・ロー(David Low)博士は「この取り組みは、バッテリーの循環型経済構築へのコミットメントにおける重要なマイルストーンであり、使用済みEVバッテリーを管理するためのアプリケーションの開発が促進することを期待しています」と語った。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部