シンガポール国立大学(NUS)のがん科学研究所(CSI Singapore)と英国のケンブリッジ大学の研究チームが、BRCA2遺伝子変異が乳がんの発症に与える影響について重要な知見を明らかにした。NUS が10月31日付で発表。研究成果はNature Communicationsに掲載された。
乳がんは、BRCA2遺伝子変異を持つ人々の約70%が、80歳までに発症すると言われている。CSI Singaporeのアショカ・ヴェンキタラマン(Ashok Venkitaraman)教授は、「BRCA2遺伝子変異保有者が乳がんを発症するリスクは高いにもかかわらず、これらの変異が乳腺のさまざまな細胞種にどのような影響を与えるかについては、まだ理解が不足しています。私たちの研究は、早期介入戦略をより良くデザインするために、乳腺組織という微小環境でがんの形成に関する初期イベントを解明することを目的としています」と話した。
長期の乳腺オルガノイド培養を用いた詳細な調査により、健康な乳腺には腫瘍に先行する病変を形成する素因がないことが明らかになった。しかし、DNA複製中にストレスにさらされると、ホルモン受容体陰性(HR-)内腔細胞の集団が著しく拡大し、その拡大はBRCA2変異を有する乳腺オルガノイドにおいて特に顕著であった。
この研究ではまた、BRCA2変異を持つHR-内腔細胞が、複製ストレス下でオルガノイド形成と生存の促進を示すことも発見された。さらに、単一細胞のRNA配列レベルでの解析から、これらの細胞では幹細胞マーカーとI型インターフェロン応答が上昇し、HR-内腔細胞が優先的に増殖することが同定された。また、BRCA2変異を持つHR-内腔細胞は、複数のストレスの後にのみ腫瘍を形成しやすくなることが示され、特にBRCA2変異保有者において、HR-腫瘍とHR+腫瘍の形質転換は、異なるメカニズムによって推進されることが示唆された。
研究チームは、BRCA2変異保因者の予防的乳房切除症例の乳腺において、この研究で得られた主要な観察結果をさらに検証したいと考えている。これにより、早期介入戦略を立案するためのエビデンスが強化され、BRCA2遺伝子変異を有する患者をケアする臨床医に指針が提供される。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部