2024年01月
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土壌微生物叢から植物の成長を30%促進する植物ホルモン放出 シンガポール

シンガポール国立大学(NUS)と傘下の環境生命科学工学センター(SCELSE)の研究者らが、土壌中の微生物叢から、植物の成長を30%促進する植物ホルモンが放出されることを発見した。研究成果は、学術誌Nature Chemical Biologyに掲載された。

サンジャイ・スワラップ(Sanjay Swarup)准教授(右)ら研究チームのメンバー
©SCELSE(提供:NUS)

世界人口が2050年までに100億人に達すると予測される中、食料安全保障の確保は喫緊の課題の1つだ。シンガポールは、2030年までに栄養需要の30%を生産できるようにするという「30 by 30」の目標を掲げている。目標を達成するためには、持続可能な農業が重要であり、有望な戦略として、農業微生物(および自然由来の農薬)に注目が集まっている。

2018年から行われた研究で、研究者らはストレスがかかる時期に植物が地上に放出する保護ホルモン、メチルジャスモネート(MeJA)として知られる揮発性有機化合物(VOC)が、これまで知られていなかった機能を持つことを明らかにした。この結果から、植物がMeJAを用いて土壌周囲の微生物叢とコミュニケーションをとっている可能性が示唆された。

本研究で発見されたことは、以下の3点である。

  1. 特注の気流システムを用いて、MeJAが植物の根から揮発性の形で地中に放出されることを初めて発見した。
  2. 揮発性MeJA存在下では、植物の根から離れた場所にいるバクテリアのバイオフィルム形成が誘発、促進される。
  3. バイオフィルム内のこれらのバクテリアは、植物の成長を最大30%促進する別の揮発性化合物を放出する。

NUS理学部傘下の持続可能な都市農業研究センター(SUrF)の主任研究員で、SCELSEの副研究ディレクターでもあるサンジャイ・スワラップ(Sanjay Swarup)准教授は、「この発見は持続可能な農業の鍵となります。これらの農業微生物を利用することで、農作物の生産性を高めるだけでなく、化学肥料の必要性を減らし、近代的な農法が環境に与える影響を緩和することができます」と話した。

(2023年12月6日付発表)

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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