シンガポールの南洋理工大学(NTU)は、同国の国立感染症センター (NCID)と共同で、デング熱の重症例診断につながる化合物として、デング熱患者の血液中に含まれる2つのタンパク質sST2とsuPARを同定した。
(出典:NTU)
デング熱は多くの場合、軽症で終わるが、約15%の感染者は重症デング熱に進行する場合があり、厳重な監視と専門医療を受けられないと生命を脅かす危険性がある。重症化する症例を初期段階で正確に特定する方法として、血液サンプルを用いたPCRやELISA法があるが、十分な感度があるとは限らない。
また、世界保健機関(WHO)が推奨している方法は、発熱、頭痛、目の奥の痛み、関節や筋肉の痛み、発疹、軽い出血などの症状について、ガイドラインを使って評価するものだが、これらの症状は軽症のデング熱や他の病気と重複する可能性がある。重症デング熱のスクリーニングにおいて、これらのガイドラインの精度は6~18%ほどである。
NTUとNCIDの研究チームは、シンガポールのタン・トク・セン病院で治療を受けた129人のデング熱患者を対象に2016年から2019年にかけて実施した研究で、デング熱の重症度判定におけるsST2とsuPARの重要性を発見した。sST2とsuPARは心臓の健康に関連する血液中のタンパク質で、検査キットはすでに市販されており、心不全の検査に使用されている。sST2値が高いと心臓ストレスと繊維症を示し、心不全の重症度を評価するのに役立つ。suPAR値の上昇は炎症の増加を示し、心臓疾患のリスク上昇に関連する。研究者らは、これらの検査を検証し、重症デング熱を検査できる単一のキットに適合させることに取り組んでいる。
この2つのタンパク質レベルをモニターする方法は、WHOが規定するガイドラインよりも高い55~60%の精度で重症デング熱を予測できると推定されている。研究者らは「この検査キットは命に別状がないデング熱と入院が必要な重症デング熱の判別において、臨床医を大いに助けるだろう」と述べた。
(2023年12月18日付発表)
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部