シンガポールの南洋理工大学(NTU)は1月31日、国内外の研究者で構成される共同研究チームが、クモの糸からヒントを得て、次世代のバイオ医療に革新をもたらす可能性のある電極を開発したことを発表した。研究成果は科学誌natureに掲載された。
チェン・シャオドン(Chen Xiaodong)教授(右から2人目)ら研究チーム
この研究は、NTU材料科学工学部のチェン・シャオドン(Chen Xiaodong)教授、NTU機械・航空宇宙工学部のガオ・フアジャン(Gao Huajian)教授、さらに中国科学院や、中国の南京医科大学の研究者らが中心となり実施された。
今回開発されたのは、組織に巻き付けて電気刺激を与えたり、電気活動を記録したりする柔軟な電極だ。電極の元となる素材はクモの糸からヒントを得ており、生体組織に適合するように収縮し、無毒性で、従来の伸縮性電極よりも優れた性能を発揮する。この技術は不規則な心拍のモニタリング、神経修復、創傷の閉鎖、傷跡の軽減のためのバイオメディカル機器への扉を開く可能性がある。
電極の元となるフィルムは半結晶性ポリ(PEO)と、ポリ-α-シクロデキストリン包接錯体(IC)を混合した素材からなる薄膜から出来ており、乾燥状態では半結晶性PEOの結晶構造が保たれるが、水に濡れるとPEO構造が破壊されることで、フィルムが収縮して組織にフィットする。
収縮性材料の作成。混合物を注入し、乾燥させてフィルムを形成し、その後、フィルムを繰り返し延伸する
材料内の PEO 結晶構造は水と接触すると壊れ、フィルムが柔らかくなって収縮する
鶏の心臓を使って、フィルムが水と接触するとどのように収縮するかをデモンストレーションする
(出典:いずれもNTU)
柔軟な電極を作るため、研究者たちは、乾いたフィルムに金を蒸着させ実験に用いた。ラット実験で、研究者たちは、この電極が、神経に効果的に電気インパルスを送ることができることを実証した。さらに、筋肉、神経、心臓からの電気信号も記録することができ、電極と組織の間の密閉性により、従来の伸縮可能な金電極よりも高い感度を持つことも分かった。
NTU材料科学工学部・デジタル分子解析科学研究所の研究員で、本研究の筆頭著者であるイー・ジュンチ(Yi Junqi)博士は、「この材料は、エレクトロニクスと人体との接点において、次世代のバイオメディカルアプリケーションを形成する上で重要な役割を果たすかもしれません。さらに低侵襲性であるため、デバイスの植え込み手順をより安全で単純なものにする可能性があります」と語った。
研究チームは現在、電極の長期安定性の向上と性能の最適化に取り組んでいる。将来的には、電極を安全に使用するための臨床試験を行う予定である。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部