2024年04月
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がん患者の治療薬の検査とスクリーニング時間を大幅に短縮する新しいプラットフォームを開発 シンガポール

シンガポール国立大学(NUS)は3月4日、NUSとシンガポール国立がんセンター(NCCS)の科学者が抗がん剤の有効性を判定するのに必要な時間を大幅に短縮できる新しいプラットフォームを開発し、実証したこと発表した。研究成果は学術誌Biomaterialsに掲載された。

エリザ・フォン(Eliza Fong)助教(手前右)ら研究メンバー
(提供:NUS)

開発された技術は、手術で切除された患者の腫瘍を体外で培養し、標準的な手法と比較した場合、より良好な状態で保存することができる。これによって、個々のがん患者に対する薬剤のスクリーニングや検査のプロセスを加速することが期待される。

腫瘍は、急速に増殖するがん細胞だけでなく、免疫細胞のような支持細胞のダイナミックな配列からなる複雑な組織である。腫瘍内にあるさまざまな種類の細胞の性質や構成は、同じような背景や人口統計学的属性、生活習慣を持つ患者であっても、大きく異なることがある。

本研究の共同責任者であるNUSデザイン工科カレッジ医用生体工学科とN.1 Institute for Healthに籍を置くエリザ・フォン(Eliza Fong)助教は、「腫瘍は、がん細胞からできているわけではありません。腫瘍に含まれるさまざまな細胞は、チェスの駒に例えることができます。がん細胞に似たキングは、腫瘍に存在する他の駒や細胞タイプによって守られ、支えられています。現在、多くの薬剤が、がん細胞を排除するために、こうした支持細胞を標的としています」と話す。

フォン助教は、「従来の方法では、プラスチックの容器を用いており、腫瘍の断片を2~3日の間しか保存することしかできませんでした。今回の研究の画期的な点は、組織のような生体工学的ハイドロゲルを使用して、腫瘍の断片を体外に最長10日間保存できる材料ベースのプラットフォームを開発したことです。これにより多くの薬物検査やスクリーニングを行うことが可能となります。すなわち、これらの腫瘍片は、個別化医療のための真の患者のアバターとしての役割を果たすことができます」と研究の意義を述べた。

また、NCCSのゴパール・イアイヤー(Gopal Iyer)教授は「従来の抗がん剤治療は、効果の判定に6ヶ月以上かかり、また、最良の選択肢であるブロックバスター免疫療法薬でさえ、成功率は20%程度です。このプラットフォームではより現実的な設定で薬剤をテストし有効性を向上させることを目標としています」と語った。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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