シンガポール国立大学(NUS)は3月5日、研究者らが1cm²あたりの太陽エネルギー吸収面積で27.1%という世界記録の電力変換効率を達成し、これまでにない高い性能を持つ新しい3接合ペロブスカイト/Siタンデム太陽電池を開発したことを発表した。研究成果は学術誌Natureに掲載された。
NUSのホウ・イー(Hou Yi)助教(左)ら
太陽電池は2層以上に分けて製造することができ、効率を高めるため、多接合太陽電池を形成するように組み立てることができる。各層は異なる光起電力材料でできており、異なる波長の太陽エネルギーを吸収する。しかしながら、現在の多接合太陽電池技術には、低電圧につながるエネルギー損失や、動作中のデバイスの不安定性など、多くの問題があった。
こうした課題を克服するため、NUSのホウ・イー(Hou Yi)助教は、デザイン工学部(CDE)と太陽エネルギー研究所(SERIS)の研究者チームを率いて、ペロブスカイト太陽電池にシアネートを組み込むことに初めて成功させ、他の多接合太陽電池の性能を上回る最先端の三接合ペロブスカイト/Siタンデム太陽電池を開発した。
新しいペロブスカイトの原子構造を分析した結果、シアネートを取り入れることでペロブスカイトの構造が安定し、構造内で重要な相互作用が形成されるという実験的証拠を得た。この性能を評価したところ、従来のペロブスカイト太陽電池が1.357Vであるのに対し、シアネートを組み込んだペロブスカイト太陽電池は1.422Vという高い電圧を達成し、エネルギー損失も大幅に低減できることが分かった。
NUS の研究者らは、新しい陰イオンであるシアネートをペロブスカイト構造に組み込むことに成功した
(提供:いずれもNUS)
研究チームは、この画期的な発見をステップにし、ペロブスカイト太陽電池とシリコン太陽電池を積み重ねて二重接合のハーフセルを作り、シアネート一体型ペロブスカイト太陽電池の取り付けに理想的な基盤を開発し、27.1%の電力変換効率を達成した。三接合ペロブスカイト/Siタンデム太陽電池の理論効率は50%を超えており、特に設置スペースが限られている用途では、さらに向上する可能性が大きい。
研究チームは今後、効率と安定性を損なうことなく、この技術をより大きなモジュールに拡大することを目指している。今後の研究では、ペロブスカイトの界面や組成における技術革新に焦点を当てる予定。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部