シンガポールの南洋理工大学(NTU)は4月29日、研究チームが、ヤモリの足の粘着力の10倍以上の強度をもつ、再利用可能なスマート接着剤を開発したことを伝えた。研究成果は学術誌National Science Reviewに掲載された。
この形状記憶ポリマーは、以前の形状の記憶を保持し、熱、光、電流などの外部刺激を加えて変形させた後でも元の形状に戻ることができる材料である。このような特性から、さまざまな表面に適応できる切り替え可能な接着剤として使用が可能である。
研究チームは、形状記憶ポリマーを髪の毛のような繊維状にデザインすることで、接着力を最大化する方法を発見した。この素材は、ヘアードライヤーを利用して熱を加えると、柔らかいゴムのような状態になり、接着面の微細な凹凸にフィットして固定される。素材が冷えると、ガラス状になり、形状固定の効果によって強力な接着力が生まれる。
研究チームは、繊維状の集合体の配列を工夫することで、接着剤が保持できる重量を上げることに成功した。断面積が19.6mm2の繊維1本で1.56kgまでの荷重を支えることができるという。
筆頭著者であるNTUの研究員リン・チャンフォン(Linghu Changhong)博士は「この接着剤は1つの課題であった接着のパラドックスを克服するものです。つまり、既存の接着剤では、荒い表面では、分子が接着する表面積が大きいにも関わらず接着強度が低下する現象が見られますが、我々のポリマーの接着強度は、固体状態では表面の粗さとともに増加し、ゴム状状態では減少することが分かりました」と語った。
また、共著者でNTUの元特別栄誉教授であり、現在精華大学の教授であるガオ・ファジャン(Gao Huajian)氏は「粘着剤には、十分な強度はもちろん、必要なときには簡単に剥がれるという2つのモードが重要です。形状記憶ポリマーに関する我々の研究により、簡単に硬化して表面に貼り付き、同じように簡単に軟化して剥離できる接着剤が生まれました」。と研究の有用性を語った。
このスマート接着剤は人間の体重を支えることができ、人間が壁を軽々とよじ登ることができるロボット・グリッパーや、調査や修理のために天井にしがみつくことができるクライミング・ロボットへの利用が期待される。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部