シンガポールの南洋理工大学(NTU)は4月30日、科学者らがイモムシの自己組織化タンパク質にヒントを得て、多用途の薬物送達システムを開発したと発表した。研究成果は学術誌Nature Nanotechnologyに掲載された。
NTU材料科学工学部のユ・ジン(Yu Jing)准教授(中央)
(出典:NTU)
複雑な構造を形成するために自己組織化する分子は自然界でよく見られる。例えば、クチクラと呼ばれる昆虫の外皮には、自己組織化するタンパク質が豊富に含まれていることが知られている。NTUの科学者らはアワノメイガ(Ostrinia furnacalis)のクチクラに含まれるタンパク質の自己組織化能力を利用して、薬剤やメッセンジャーRNA(mRNA)を送達することに使用できるナノサイズのカプセルを作成した。
アワノメイガのイモムシは中国からオーストラリアにかけての地域で生息し、トウモロコシに被害を与える。イモムシの頭部にあるクチクラは、イモムシを保護し、ユニークな機械的性質を与えている。科学者らはクチクラに含まれるタンパク質を分析し、自己組織化により中空ナノカプセルを形成する可能性のある3種のペプチドを特定した。さらに、イモムシに含まれている天然の自己組織化ペプチドの合成版を作り、水に溶かし、アセトンを加えることで10分以内に球状の中空ナノカプセルを形成させることにも成功している。この技術については、現在特許を申請中だ。
NTU材料科学工学部のユ・ジン(Yu Jing)准教授は「私たちの知る限りでは、今回の研究成果はペプチドナノカプセルをテンプレート無しで作成した初めての例となります。私たちのペプチドナノカプセルは、ドラッグデリバリーや遺伝子治療など、さまざまな生物医学的応用の可能性を開きます」と語った。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部