シンガポール国立大学(NUS)は6月11日、NUSの人文社会学部(FASS)の英語・言語学・演劇学科(ELTS)の研究者が率いる研究により、高齢シンガポール人の自然な発話を研究することで、認知症の初期言語学的兆候を発見できることが分かったと発表した。研究成果は学術誌Alzheimer's & Dementia誌に掲載された。
この研究はNUSヨンローリン医学部(NUS Medicine)との共同研究で、認知症の言語学的マーカーを発見するために、認知的に健康な人と軽度認知障害(MCI)を患っている人の自然な発話を比較したものだ。その結果、記憶に関連したMCI患者は話す量が少なく、抽象的な名詞が多いことが分かった。
研究では、60~70代のシンガポール人高齢者148人から自然音声データを入手している。被験者のうち半数は認知的に健康、半数はMCIであった。74人のMCIのうち、38人は記憶に影響を及ぼす健忘型MCIで36人は記憶以外の思考能力に影響を及ぼす非健忘型MCIと診断された。健忘型MCIはアルツハイマー病への移行リスクが、非健忘型MCIはレビー小体型認知症など他のタイプの認知症への移行リスクが高い。
被験者は20分間英語で自由な話題を話すことが指示され、その発話が普通のオフィス環境で録音された。録音された単語は書き起こされ、品詞タグ付けソフトを使って名詞または動詞のタグが付けられた。研究チームは、タグ付けされたすべての単語について、1分あたりの単語数と具体性スコアを算出し解析した。その結果、健忘型MCI患者では非健忘型MCI患者や健常対照群に比べ、発話量が少なく、名詞の数が少なく、抽象的であることが明らかになった。
NUSのELTSのルウェン・カオ(Luwen Cao)博士は「従来の認知症診断は、神経心理学的検査や神経学的検査を受けて行われてきました。初期の認知機能低下の言語的兆候を検出するための自然音声の研究は、信頼性が高く、非侵襲的で、費用対効果の高いツールであり、進行性の疾患の早期診断、介入、管理において、医療従事者を助ける可能性があります」と語った。研究チームは今後、健忘症型MCI患者が経験する言語障害に対処するための言語ベースの介入戦略を考案する予定である。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部