シンガポールの南洋理工大学(NTU)は9月12日、同大学リーコンチアン医科大学(LKCMedicine)と英国オックスフォード大学の研究チームが、損傷したDNAを修復する新たなプロセスを発見したと発表した。研究成果は学術誌Cellに掲載された。
本研究を率いたLKCMedicineのクリスティヤン・ラマダン(Kristijan Ramadan)教授
(出典:NTU)
発表された論文は、細胞が細胞の核から有害なDNA-タンパク質を取り除き、遺伝物質の安定性を確保し、細胞の生存を促進させるDNA修復の新たなプロセスを報告している。ヌクレオファジーは、オートファジーとして知られる細胞のクリーニングメカニズムであり、DNAの修復と細胞の生存に不可欠なものである。今回、研究チームは大腸がんの化学治療を受けている患者を対象とした研究で、ヌクレオファジーの活性化にTEX264が関連していることを発見した。
大腸がんの化学療法では、抗がん剤が健康な細胞においてもDNA損傷を引き起こすことで重篤な副作用を引き起こすという問題点がある。今回の発見では、体内でTEX264が発現し、ヌクレオファジープロセスが活性化することで、損傷したDNAが分解されるメカニズムが明らかになった。研究チームは、生化学、細胞生物学、バイオインフォマティクスのツール、ゼブラフィッシュ動物モデル、大腸がん患者のサンプルなどを用いて、ヌクレオファジーが化学療法による病変部のDNA修復に直接的な役割を果たすことを発見した。
この研究は、細胞がDNA損傷を修復するための新たなプロセスについて、洞察を与え、将来的にがん治療の向上や患者の予後の改善につながる可能性があると科学者と臨床医からなる研究チームは述べている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部