シンガポール国立大学(NUS)は9月19日、同大学の研究チームが高齢女性の体外受精(IVF)などの生殖補助医療技術の成功率向上に向け、老化した卵母細胞の生殖能力を著しく回復させる革新的な技術を開発したことを伝えた。研究成果は学術誌Nature Agingに掲載された。
NUSメカノバイオロジー研究所(MBI)のロン・リー(Rong Li)教授(左)とワン・ハイヤン(Wang Haiyang)博士
女性の生殖機能の老化は自然なプロセスであり、加齢につれ、卵子の量と質が急激に低下することが知られている。一方、近年は晩産化の傾向にあり、高齢女性における卵細胞の成熟、受精、胚発育を成功させるためには、卵細胞の加齢に対する影響を理解し、緩和することが重要である。
NUSのメカノバイオロジー研究所(MBI)とヨンローリン医学部を拠点とするNUSビア・エコー・アジア生殖長寿・平等センター(ACRLE)の研究者らは、卵母細胞(未成熟卵細胞)を高齢の卵胞環境から若い卵胞環境に移植することにより、その生殖能力を著しく向上させる革新的な技術を考案した。
卵胞は排卵前の卵母細胞(未成熟卵細胞)を取り囲んでいる組織であり、経帯状突起を通じて、卵母細胞に必要な栄養素や成分を供給している。一方で、卵母細胞もまた、卵成長と発達に重要なシグナルを卵胞に供給している。研究チームはこの相互作用に着目し研究を行った。
この画期的なアプローチは、体外受精などの生殖補助医療技術において、より質の高い卵子の成熟をサポートするもので、高齢女性の転帰改善に道を開く可能性がある
(提供:いずれもNUS)
まず、研究者らは、若い卵胞環境と比較して、老化した卵胞環境はDNA損傷やプログラム細胞死に関連する因子が増加していることを確認した。そして、このような卵胞環境の老化が、若い卵子の質と発育の可能性を低下させる可能性があることを示した。
次に、生体外3次元培養プラットフォームを用いて、老化卵胞環境の未成熟卵細胞(老化卵母細胞)を若い卵胞環境に入れたハイブリッド卵胞を培養した。その結果、老化卵母細胞内で代謝と遺伝子発現の再構築が起こり卵母細胞の質が実質的に回復していることを発見した。また、若い卵胞環境中の細胞は、老化卵母細胞に向かって経帯状突起を形成する能力に優れており、老化卵母細胞の回復を促進するのに役立っていることも明らかになった。
研究チームのMBIのワン・ハイヤン(Wang Haiyang)博士は「卵子の質を改善するための非侵襲的な細胞ベースの戦略開発に、本研究結果は重要です。体外受精などの生殖補助医療技術の治療成績の改善につながる可能性があります」と述べ、本研究の意義を強調した。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部