シンガポール国立大学(NUS)は9月30日、NUSヘルス・イノベーション&テクノロジー研究所(iHealthtech)の研究チームが、がん細胞内のタンパク質間相互作用をマッピングする新技術、TETRISを開発したことを発表した。研究成果は学術誌Nature Biomedical Engineeringに掲載された。
左から右へ: ブライアン・リム(Brian Lim)准教授、ノア・スンダ(Noah Sundah)博士、リウ・ユー(Liu Yu)博士、シャオ・フイリン(Shao Huilin)准教授
iHealthtechのシャオ・フイリン(Shao Huilin)准教授とブライアン・リム(Brian Lim)准教授、リウ・ユー(Liu Yu)博士、ノア・スンダ(Noah Sundah)博士らは、DNAバーコード法を利用して、細胞内におけるタンパク質同士のペアおよび高次相互作用とその動態を多重的にマッピングする新技術TETRISを開発した。
TETRIS診断キットのサンプル。DNAバーコードを活用して腫瘍細胞内の複雑なタンパク質相互作用を解明し、マッピングすることで、わずか数時間で前例のない精度で癌の診断とサブタイプ分類を行う。
(提供:いずれもNUS)
タンパク質は生命の基本的なプロセスのほぼ全てを担っており、その相互作用を理解することは、生物学や医学において重要である。特に疾患予測や診断、治療戦略の開発において、これらの相互作用を解読することが大きな臨床的価値を持つ。TETRISは、わずか数時間で腫瘍細胞内の複雑なタンパク質相互作用を把握できる技術で、がんのサブタイプや進行性の高いがんを正確に診断することが可能となるという。
TETRISは、特定の標的を認識する抗体とテンプレート化されたDNAバーコードが含む分子構造体を使用することで、サンプル内のタンパク質相互作用を直接解析する。この分子構造体はタンパク質に結合する際、バーコード領域同士も連結する。つまり、こうした連結はタンパク質同士の相互作用の存在を意味するため、各分子構造体の連結の連鎖を捕捉することで、分子の識別情報や空間的関係を正確に把握できる。リム准教授は、これを会議にたとえて「各参加者が名前付きの名札(バーコード)を付けており、握手(相互作用)するたびにその関係が記録されます。TETRISはこれを読み取り、どのタンパク質が相互作用しているのかを解明します」と説明している。
乳がん組織の生検サンプルにTETRISを適用した実験では、がんのサブタイプを正確に診断でき、進行性の高いがんに関連する高次のタンパク質相互作用も捕捉できたという。また、多数のサンプルの迅速な処理が可能で、既存の実験室設備にも容易に組み込めることから、実臨床での応用が期待されている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部