シンガポール国立大学(NUS)は1月9日、同学の研究者らが国際共同研究を行い、炭素ベースの量子材料の開発において大きな進展を成し遂げ、量子エレクトロニクスの発展に新たな展望を開いたことを発表した。研究成果は学術誌Natureに掲載された。
この研究を主導したNUS化学科のルー・ジオン(Lu Jiong)准教授(中央)と研究チームのメンバーら
一般的な磁石は主に金属で作られているが、材料の供給リスクの影響により代替材料が求められている。今回開発されたヤヌス型グラフェンナノリボン(JGNR)は、炭素を材料としており、2つの端のうち1つのみジグザグ構造を持つことで強磁性を発揮する。既存の研究では左右非対称のグラフェンナノリボン(GNR)しか合成できず、磁石の性質を示さなかった。
研究チームは、非対称なZ構造を持つ前駆体物質を、金属板上で一方向に並べる特殊な合成方法を用いてJGNRの合成を行った。結果、電子スピンがジグザグ端で高密度に局在し、炭素磁石としての特性を持つことを世界で初めて実証した。
ヤヌス型グラフェンナノリボンの原子モデル(左)と原子間力顕微鏡画像(右)
(提供:いずれもNUS)
この研究を主導したNUS化学科のルー・ジオン(Lu Jiong)准教授は、「JGNRは、スピンコヒーレンス時間が長く、室温で動作する可能性があります。こういった性質は量子技術分野に大きな影響をもたらすでしょう」と述べた。この成果は、米カリフォルニア大学バークレー校のスティーブン・G・ルイ(Steven G Louie)教授や京都大学の坂口浩司教授をはじめとする、合成化学者、材料科学者、理論物理学者との緊密な協力の結果によるものである。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部