シンガポール国立大学(NUS)は1月24日、NUSの研究者らがDNAバーコードを用いて、薬物送達や光熱療法に使える金ナノ粒子を追跡し、最適化する新しい技術を開発したと発表した。研究成果は学術誌Advanced Functional Materialsに掲載された。
アンディ・テイ(Andy Tay)准教授とそのチームは、金ナノ粒子を追跡し最適化する新しい技術を開発し、腫瘍への精密な薬物送達を実現
(提供:NUS)
人間の髪の毛の1000分の1ほどの大きさの金ナノ粒子は、がん治療において利用されている。例えば、腫瘍部位に到達した金ナノ粒子は特定の波長の光を熱に変換し、周囲のがん細胞を死滅させることができる。また、金ナノ粒子は腫瘍内の特定の場所に薬剤を運ぶことも可能だ。
NUSのデザイン・エンジニアリング学部とヘルス・イノベーション&テクノロージ研究所のアンディ・テイ(Andy Tay)准教授は「金ナノ粒子が機能するためには、まず標的部位にうまく送り込む必要があります」と説明する。金ナノ粒子の形状、サイズ、表面特性によって取り込まれやすい細胞に違いがあることは知られていたが、最適な金ナノ粒子のデザインをスクリーニングする効率の良い方法はなかった。
この課題に取り組むために、NUSの研究者らはDNAバーコードによるタグ付けに着目した。デザインの異なる金ナノ粒子ごとに異なるDNAバーコードのタグ付け行うことで、生体内で複数のデザインの金ナノ粒子を同時にモニターすることが可能になった。研究では6種類のデザインの金ナノ粒子を調整し実験を行った。その結果、三角形の金ナノ粒子が、効率的な細胞取り込みと強い光熱特性をもたらすことが分かった。
現在、米国食品医薬品局(FDA)で承認されているナノ粒子の形状は球状が主流だが、今回の研究結果は未開拓であるそれ以外の形状のナノ粒子の可能性を広げるものとなる。研究者らは今後、細胞内小器官を標的にできる候補を特定するために、ナノ粒子ライブラリーを30種類のデザインに拡張する予定だ。テイ准教授は「既存のナノ粒子ベースの薬剤は、すべての臓器に均一に届くという前提にありました。しかし、実際は臓器によって反応が異なります。臓器特異的ターゲティングのために最適な形状のナノ粒子を設計することは、がん治療のためのナノ治療薬の安全性と有効性を高めることができます」と語った。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部