シンガポール国立がんセンター(NCCS)は4月4日、超音波によって発生するマイクロバブルを使った非侵襲的ながん治療法であるヒストトリプシーの臨床試験を2025年後半に開始すると発表した。
ヒストトリプシーは、がん組織を正確に狙い撃ちした超音波によって発生するマイクロバブルを利用した技術だ。マイクロバブルは急速な膨張と崩壊を繰り返すことで腫瘍を液化させ、がん細胞を死滅させる。この技術は、米国のミシガン大学とヒストソニックス(HistoSonics)社が共同開発した。最初の肝臓がん臨床試験が2019年に行われ、2023年にFDAの承認を受けている。その後、1000人以上の患者が治療を受け、他のがんへの使用も研究されている。
シンガポールでは、この治療に使用する組織破砕装置を2台導入し、1台はNCCSに、もう1台はシンガポール国立大学がん研究所(NCIS)に設置される。装置は李嘉誠基金会とテマセク・トラストから寄贈された。両団体はこのヒストトリプシーの臨床試験をシンガポールで実施するにあたり1200万シンガポールドルを拠出すると発表した。
治験責任医師はシンガポール総合病院およびNCCSの肝胆膵・移植外科部長であるブライアン・ゴー(Brian Goh)教授が務める。研究チームは現在の治療法が適さないと判断された肝臓がん患者40人に対する臨床試験の申請準備を進めている。
治療は1回で完了し、約4分で腫瘍を液化・破壊する。従来の高周波やマイクロ波を用いた切除治療とは異なり、熱エネルギーではなく機械的エネルギーを使用するため、潜在的な副作用が軽減されるとゴー教授は語る。また、正確な照射が必要なため、全身麻酔で動きを止める必要があるが痛みは伴わず、患者は処置を受けたかどうか分からないほどであるという。
この技術は現時点で既存の治療法の代替となるものではないが、ゴー教授とNCISのデイビッド・タンシャオペン(David Tan Shao Peng)准教授は「この治療法は非常に有望な選択肢となる可能性がある」と語り、長期的な観察とデータ収集の重要性を強調している。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部