シンガポール国立大学(NUS)は4月4日、NUSの研究チームが人工知能(AI)と3Dバイオプリンティングを統合し、患者ごとにカスタマイズされた歯肉組織移植片を製造する新技術を開発したことを発表した。研究成果は学術誌Advanced Healthcare Materialsに掲載された。
歯肉組織移植は歯科治療において不可欠であり、特に歯肉退縮などの粘膜歯肉欠損や、歯周病・インプラントに起因する合併症の治療に重要なものだ。従来の方法では、これらの移植片は患者の口腔内から採取して進めるため、患者の不快感、利用可能な組織量の制限、術後合併症のリスクの高さといった課題があった。
研究チームは、3Dバイオプリンティングを用いて患者の欠損部に合わせた移植片を作成する技術と、健康な細胞の成長を促進すると同時に材料を正確に印刷し、その形状と構造を維持する特殊なバイオインクを開発した。バイオプリントされた歯肉組織移植片は、優れた生体模倣特性を示し、印刷直後から18日間の培養期間を通して90%以上の細胞生存率を維持することに成功している。
このような技術の開発は、押出圧力、印刷速度、ノズル寸法、バイオインクの粘度、プリントヘッドの温度などといった複雑なパラメーターに左右されるため、その調整に膨大な時間とリソースが必要となるが、本研究ではパラメーターの最適化にAIを用いることで大幅な効率化に成功した。
NUSデザイン工学部バイオメディカル工学科長のディーン・ホー(Dean Ho)教授は「AIを用いたことで必要な実験の数が数千通りからわずか25通りの組み合わせにまで削減され大幅に効率化されました」と語る。 NUS歯学部のゴプ・スリラム(Gopu Sriram)助教授は、「本研究は、口腔軟組織構造の作成に3DバイオプリンティングとAIを統合した初めての研究事例の1つです」と説明する。
研究チームはこれらの知見を臨床現場へ応用することを目指している。今後、口腔環境における移植片の統合性と安定性を評価するためのin vivo(生体内)実験を実施する予定だ。また、マルチマテリアルバイオプリンティングを用いて、移植片への血管の統合やより複雑で機能的な構造部の作成も目指している。研究者らは再生歯科の分野を発展させるとともに、組織工学におけるより幅広い応用への道を切り開くことを期待している。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部