シンガポール国立大学(NUS)は4月10日、同大学がん科学研究所(CSI Singapore)の研究チームが、多発性骨髄腫(MM)のレナリドミド耐性の背後にある重要なメカニズムを明らかにし、治療の改善と薬剤耐性を克服するための潜在的な戦略に新たな洞察を与えたと発表した。研究成果は学術誌Bloodに掲載された。
テオ・パイク・ジュ(Teoh Phaik Ju)博士とコー・ムン・イー(Koh Mun Yee)博士率いる研究チームは、チョン・ウィー・ジュ(Chng Wee Joo)教授とポリー・チェン(Polly Chen)准教授と共に、RNA編集酵素をコードするADAR1と呼ばれる遺伝子が、MM細胞を死滅するのに不可欠な免疫調節薬(IMiD)のレナリドミドによって引き起こされる免疫応答を抑制する重要な因子であることを特定した。
MMは骨髄の形質細胞に影響を与えるがんの一種である。IMiDであるレナリドミドを用いた標準治療は、多くのMM患者の生存率を改善させたが、薬剤耐性の発現により、かなりの数の再発が起こる。本研究では、このIMiD耐性のMM症例において、ADAR1の異常が免疫系の抑制につながることを示した。
このADAR1は、二重鎖RNA(dsRNA)の編集によりレナリドミドの活性を阻害し、免疫応答を妨げ、MMの成長と増殖に対する薬剤の有効性を低下させる。研究者は、MM細胞におけるADAR1のレベルを下げ、MM細胞のdsRNAの蓄積を増やすことで、レナリドミドに対する細胞の感受性を高められることを発見した。これにより、免疫応答が活性化され、MM細胞が死滅した。
この発見は、MM患者がIMiDに耐性を獲得するメカニズムの理解に新たな知見を与え、従来理解されていたCRBN経路を超えたdsRNA経路の役割を強調した。また、ADAR1とdsRNA経路を標的とすることで、MMにおけるレナリドミド耐性を克服する有望な戦略を提供できることを示唆した。現在ADAR1阻害剤は、前臨床開発の段階である。この戦略の活用は、MM治療の選択肢を前進させる上で、大きな期待が寄せられている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部