2025年05月
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気候変動による熱帯の健康リスクに対応、学際的研究センター新設 シンガポール

シンガポールの南洋理工大学(NTU)は4月15日、気候変動によって高まる熱帯地域の健康リスクに対応するため、学際的な研究拠点となる気候変動と環境衛生センター(CCEH)を新設し、アミー・コー(Amy Khor)持続可能性・環境省上級国務大臣の立ち会いのもとで正式に発足したと発表した。

アミー・コー(Amy Khor)持続可能性・環境省上級国務大臣(左から4人目)の立ち会いのもとで4月15日に正式に発足
(出典:NTU)

CCEHは地球温暖化や環境変化の影響により東南アジアにおいてますます深刻化してきている大気の質、極端な高温、水の供給と質という3つの柱を中心に、気候変動が健康に与える影響に焦点を当てる。高湿度やモンスーン、越境ヘイズ(煙霧)など、熱帯特有の環境要因に起因する呼吸器疾患、循環器疾患、精神的健康への影響などの課題に対処し、これまで欧米諸国の温帯地域で行われてきた研究の空白を補うことを目的としている。

この取り組みでは、東南アジア各国の専門家と緊密に連携し、地域に即した実用的な解決策の開発と知見の共有を図る。また、初期プロジェクトとして、インドネシア、インド、タイ、台湾、イギリスの大学や医療機関と連携した地域コンソーシアムの立ち上げが予定されている。

CCEHは今後、人工知能や環境センサー、リモートセンシング、モデリングなどの先進技術を活用し、熱帯地域における気候と健康の学際的研究を進めるとともに、次世代研究者の育成拠点としても機能する。NTUは今後5年間で、多数の博士課程学生を含む研究人材の育成を目指しており、この取り組みは同大学の気候変動と持続可能性への挑戦というNTUの広範な使命とも合致している。

世界保健機関(WHO)のマリア・ネイラ(Maria Neira)環境・気候変動・健康部門ディレクターは、開所に際してのビデオメッセージの中で「今こそ、私たちは専門知識と科学的能力を必要としており、このセンターは再生可能エネルギーの推進、持続可能な都市環境の構築、食料システムの転換といった3つの大きな移行を加速させる上で極めて重要です」と述べた。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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