シンガポールの南洋理工大学(NTU)は4月28日、スウェーデンの技術企業PureFize Technologies社と共同で、従来の水銀ランプを使用せず、カソードルミネッセンス技術を用いることで消毒用の紫外線(UV)光を発生させる、環境に優しい小型UVチップを開発したと発表した。
Credit: PureFize Technologies (出典:NTU)
従来の水銀ランプは、UV光を発生させるために有害な水銀を蒸発させる必要があり、環境や健康リスクが指摘されている。これに対し、今回開発されたUVチップは、カソードルミネッセンス技術を利用して、亜鉛酸化物(ZnO)ナノ構造体から電子を放出し、加速した電子がアノードに衝突することでUV光を生成するため、水銀を一切使用しない。
本チップは短波長のUV光を中心に広範な波長域のUV光を放射することで、細菌、ウイルス、真菌など幅広い微生物を効果的に不活化できる。さらに、冷却不要で小型スペースでも使用可能なため、従来のUVランプの設置が困難な場面でも利用可能だ。
開発されたUVチップは、ハンドヘルド型の食品鮮度保持装置「EcoLoc」に搭載されている。EcoLocは、イケア(IKEA)の365+食品保存容器専用のフタと組み合わせて使用され、食材の表面をUV処理することで、鮮度を約1週間延ばす効果が確認されている。実験では、パン、果物、野菜、肉類など多様な食品において、風味や香りをほとんど損なわずに保存期間を延長できた。
NTUのLUMINOUS! 半導体照明・ディスプレイ研究センター所長であるヒルミ・ボルカン・デミル(Hilmi Volkan Demir)教授は「本チップの消毒効率は従来の水銀ランプと同等であり、食品容器や冷蔵庫、医療技術応用など幅広い分野への応用が期待されます」と語る。PureFize Technologies社のルーン・トルビョーンセン(Rune Torbjörnsen)CEOは「今回開発した独自の技術は、既存のUV技術を補完する画期的なソリューションです。小型で冷却が不要という特性を活かし、多様な分野での応用が可能です」と述べた。今後、研究チームはこの技術を食品の保存期間延長や安全性向上だけでなく、医療機器の消毒、家庭内衛生、パッケージングなど、他分野への応用を目指すとしている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部