シンガポールの南洋理工大学(NTU)は5月21日、NTUの研究チームが強力な大気汚染防止対策を実施すれば、2050年までに東南アジア地域で最大3万6000人のオゾン関連の早期死亡を防ぐことが可能だという予測を発表した。
(出典:NTU)
オゾン関連の早期死亡は、有害な地表レベルのオゾンへの長期暴露によって引き起こされる死を指す。オゾンは特に高齢者や持病を抱える人々において喘息、心臓病、その他の慢性疾患を悪化させる。研究では、国際的な排出データベースから得られた大気汚染データをもとに、大気中のオゾン濃度の将来変化を詳細な気象・化学モデルで予測した。さらに、健康リスクモデル、人口動態、疾患死亡率データを統合することで、長期的なオゾン曝露による早期死亡数を推計した。
今回のモデル分析では、現状維持シナリオであっても、特にインドネシア、フィリピン、ベトナム、タイの電力、工業、交通分野における窒素酸化物(NOx)排出の段階的削減により、2050年までに年間2万2000人の死亡が回避できる見込みとなった。一方、各国が環境に配慮した行動を取り、より厳格な排出削減措置が講じられた場合、年間のオゾン関連死亡はさらに抑制され、最大3万6000人の命が救われる可能性があると予測した。
主任研究者であるスティーブ・イム(Steve Yim)准教授は、「オゾン削減は単純ではなく、その前駆物質であるNOxと揮発性有機化合物(VOCs)の規制が必要です。熱帯地域の東南アジアでは、オゾンの形成条件が他地域と異なるため、特有のアプローチが求められます」と語った。今後は、気候変動や土地利用の変化がオゾン汚染に与える影響についても研究を広げ、政策立案者や産業界、国際環境機関と連携して、持続可能な大気管理戦略の策定を目指している。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部