シンガポール国立がんセンター(NCCS)は5月28日、シンヘルス・デューク-NUSアカデミック・メディカルセンター(SingHealth Duke-NUS Academic Medical Centre)が加齢に伴い筋肉量の減少や筋力の低下を引き起こす筋肉減少症(サルコペニア)に対処するため、国内初となる全国規模の研究プロジェクトを主導していることを発表した。
60歳以上のシンガポール人の約3人に1人がサルコペニアに罹患しており、移動能力や自立性、生活の質に影響を与えている。また、サルコペニアはがんや糖尿病などの慢性疾患を抱える若年成人にもみられ、健康悪化に関するリスク因子であり、医療負担の増加にもつながっている。現在のところ、有効な治療法はなく、初期段階での診断も難しい。そのため、アジア人集団におけるサルコペニアの発症メカニズムの理解を深め、実用的な診断・治療法の研究が求められている。
サルコペニアの診断と治療のためのメカニズムの調査と臨床イノベーション(MAGNET)と名付けられた本プロジェクトは、デューク-NUS、チャンギ総合病院、NCCS、センカン総合病院、タン・トク・セン病院、そしてシンガポール科学技術研究庁(A*STAR)やNUS、NUSヨン・ルー・リン医学部などが参加し、全国の医療機関と研究機関が参加している。
現在までに400人以上のサルコペニア患者から血液細胞や筋組織などのサンプルが収集されており、サルコペニアの分子および代謝のマッピング、発症メカニズムの解明と治療の検証、早期診断ツールの開発、予防と治療のための方法の開発などが進められる。
MAGNETを主導するワン・イービン(Wang Yibin)教授は「高齢化に伴い、サルコペニアの健康負担は急速に増大していますが、その発症メカニズムと最適な治療法の解明は依然として初期段階にあります。シンガポール初のこの疾患に特化した全国規模の研究イニシアチブであるMAGNETは、国内屈指の知性と能力を結集し、科学とケアの両面で画期的な成果をもたらすことを目指しています」と語る。MAGNETの予算規模は1000万シンガポールドルで、シンガポール国立研究財団により支援されている。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部