2025年07月
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細胞外マトリックスを調整し心筋細胞老化防止へ シンガポール国立大学

シンガポール国立大学(NUS)は6月13日、細胞外マトリックスの環境を調整することで心筋細胞の老化を逆転できる可能性を示したと発表した。研究成果は学術誌Nature Materialsに掲載された。

細胞外マトリックスと細胞の相互作用を理解するため、コンフォーカル顕微鏡を使ってDECIPHER(ピンク色)上の心筋細胞(オレンジ色)を撮影したジェニファー・ヤング(Jennifer Young)助教授(右)

NUSデザイン工学部バイオメディカル工学科のジェニファー・ヤング(Jennifer Young)助教授が率いるチームは、心筋細胞を取り巻く細胞外マトリックス(ECM)の役割に注目し、人工的に操作可能なハイブリッド生体材料「DECIPHER」を開発した。これは天然心臓組織と合成ゲルを組み合わせたもので、細胞に伝わる硬さと化学シグナルを独立して制御できる。

硬さ調整可能なハイドロゲル内に埋め込まれた心臓組織(中央)からなるDECIPHERサンプル
(出典:いずれもNUS)

研究では、老化した心筋細胞を「若い」ECMシグナルを模したDECIPHER上に置いたところ、細胞は若い状態に近い挙動を示し、数千の遺伝子活性も変化した。一方、若い細胞でも「老化した」ECM上では機能低下の兆候が見られた。

同助教授は「老化した細胞の周囲環境を若返らせることで、健康な状態を取り戻せる可能性があると分かりました」と述べた。「逆に、若い細胞であっても環境が硬いと老化が早まる可能性があります。ECMの変化を標的とすることで、心臓機能の低下を予防できるかもしれません」と今後の展望を語った。

本研究は、NUSメカノバイオロジー研究所、理学部生物科学科、NUSヨン・ルー・リン医学部、国立心臓センターとの共同で行われた。研究チームは今後、他の組織や疾患にもDECIPHER法の応用を広げたいとしている。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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