2025年09月
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サンゴ骨格の記録でインド洋の海面上昇の早期加速を確認 シンガポール国立大学

シンガポール国立大学(NUS)は8月12日、サンゴを用いた研究により、インド洋の海面上昇が1959年頃から加速していたことを明らかにしたと発表した。研究成果は学術誌Nature Communicationsに掲載された。

NUS主導の研究でサンゴが相対的な海面変化の信頼できる指標であることが確認され、気候研究における強力なツールとなることが明らかになった

研究はNUS文学・社会科学部地理学科のポール・ケンチ(Paul Kench)教授が主導し、NUSとシンガポールの南洋理工大学(NTU)の研究者と共同で実施した。対象はインド洋中央部のモルディブ諸島のサンゴで、骨格に残された層を分析することで、20世紀初頭までさかのぼる100年規模の海面変動記録を再構築した。これにより、従来より60年長いデータが得られた。

解析の結果、インド洋の海面は1959年頃から顕著に上昇速度を増しており、人為的な地球温暖化と氷河融解の加速と一致していた。また、20世紀半ば以降の海面は30cm上昇していた。インド洋は世界の海洋面積の約30%を占め、世界人口の3割が沿岸に暮らしている。海面上昇による影響は洪水や浸食、塩水浸入、生態系破壊に直結し、沿岸地域に住む何百万人もの人々が脅威にさらされている。

海洋科学者たちは、主に死んだサンゴからサンプルを採取した。これらのサンゴは、骨格内に海面水位や環境変化に関する重要なデータを記録しており、これまでにない詳細なインド洋の海面水位記録が再構築された
(提供:いずれもNUS)

サンゴは樹木の年輪のように層を形成し、その中に海水温や塩分、海面高さの情報を残す。研究チームは潮位計や衛星データと比較し、サンゴ記録が精度高く一致することを確認した。さらに、異常な温暖化や寒冷化、干ばつといった過去の極端気象も記録されており、気候変動の長期的影響を追跡できる有効な手段であることが示された。

同教授は「海面上昇の早期加速は、温暖化に対して海が私たちの想定以上に早く強く反応していることを示す警告です」と述べた。今回の成果は、シンガポールが進める沿岸洪水モデルや気候影響研究の基盤を強化し、東南アジアを含む低地沿岸地域の適応策にも資すると期待される。

この研究は古気候学の分野における新たな基準とされ、過去をより明確に捉えるとともに、よりレジリエントな未来を計画するための重要な指針となるものである。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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