シンガポールの南洋理工大学(NTU)は8月29日、NTUの研究者らがペロブスカイト太陽電池の実用化に向け、革新的な手法により、安定性と効率を向上させたと発表した。研究成果は学術誌Nature Energyに掲載された。

本研究を主導したサム・ツィ・チェン(Sum Tze Chien)教授(右から2人目)と研究チームメンバーら
ペロブスカイト太陽電池は、シリコン系太陽電池に代わる有望な代替品である。しかしながら、ペロブスカイト材料は酸素、湿気、熱、光にさらされると容易に劣化するため、安定性が普及の鍵となっていた。
環境による劣化からペロブスカイト太陽電池を保護するため、通常、反応性の高いバルクカチオンからなる極めて薄い界面層がペロブスカイト膜に適用される。このカチオンは、ペロブスカイトと容易に反応して優れた導電性を示す被膜を形成する。ただ、反応性が高いため界面層の安定性は低い。
一方、化学的に不活性なバルクカチオンを界面層に組み込むと、高い安定性と良好な導電性を両立する保護被膜が生成される。しかしながら、この組み込みにおいてもカチオンの反応性が低いため制限を受ける。
これらの課題を克服するため、研究チームは、選択的テンプレート成長(STG)と呼ばれる戦略を開発し、高い安定性と良好な導電性を兼ね備えた化学的に不活性な界面層の作成を行った。
研究チームはこの戦略を活用し、1cm2のペロブスカイト太陽電池のプロトタイプを試作し、25.1%の電力変換効率を達成した。これは同サイズのペロブスカイト太陽電池として報告されている最高値の1つである。この装置は、85℃の温度条件で1000時間の動作後でも初期効率の93%以上を維持し、1100時間後でも98%を維持した。

STG戦略により作製された1cm2プロトタイプのペロブスカイト太陽電池(茶色の長方形)
(出典:いずれもNTU)
この研究を主導した1人であるNTU高等研究所所長兼NTU理学部副学部長(研究)のサム・ツィ・チェン(Sum Tze Chien)教授は、「私たちの戦略により、以前は反応性や溶解度の制限のため使用できなかった化学的に不活性な界面材料へのアクセスが可能となりました。これは、ペロブスカイトデバイスにおける界面設計に新たな道を開きます」と述べた。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部