2025年10月
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転移RNA修飾を迅速に検出するツール開発 シンガポールとMITのアライアンス

シンガポールと米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究技術アライアンス(SMART: Singapore-MIT Alliance for Research and Technology)は9月3日、薬剤耐性に取り組む学際研究グループ(SMART AMR)の研究者らが、数千の生物学的サンプルをスキャンして転移RNA(tRNA)修飾を検出する強力なツールを開発したと発表した。研究成果は学術誌Nucleic Acids Researchに掲載された。

がんや感染症は、遺伝物質の突然変異や侵入微生物の指令によって、細胞が異常に機能することを余儀なくさせる。tRNA修飾は、RNA分子の小さな化学的変化であり、細胞の成長、ストレス適応、がんや抗生物質耐性感染症などの疾患の制御に関与する。SMART AMRが率いる研究チームは、エピトランスクリプトーム(あらゆる形態のRNAに施される170種類以上の化学修飾)による正常細胞の成長の制御や、環境ストレスによる細胞応答メカニズムの研究において世界をリードしている。

広範なエピトランスクリプトームと数千種類にも及ぶRNA修飾を研究するために利用されている現行の分子手法は、多くの場合、時間や労力、コストがかかり、危険な化学薬品を伴うため、研究のテーマやスピードを制限する。この課題を解決するため、研究チームは、tRNA修飾(細胞の生存・ストレス適応や疾病応答を制御する分子変化)の迅速かつ自動化されたプロファイリングを可能にするツールを開発した。

SMART AMRの共同研究責任者(PI)であり、論文の責任著者であるMITのピーター・デドン(Peter Dedon)教授は、「この先駆的なツールの開発は、細胞応答を調節するRNA修飾の複雑な言語の解読における革新的な進歩を意味します。SMART AMRにおける質量分析とRNAエピトランスクリプトミクスの専門知識を活用して、私たちの研究は、抗生物質耐性感染症だけでなく、がんの理解と治療に不可欠な複雑な遺伝子ネットワークを検出する新しい方法を開発しました。このツールは、迅速かつ大規模な分析を可能にすることで、基礎科学の発見と、世界的に差し迫った健康上の課題に対処する標的診断や治療法の開発を加速します」と述べた。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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