2025年10月
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サンゴに安全な花粉ベースの冷却日焼け止め開発 シンガポール南洋理工大学

シンガポールの南洋理工大学(NTU)は9月4日、ツバキ花粉を利用した世界初の花粉ベースの日焼け止めを開発し、市販品と同等の紫外線防御効果を持ちながら、サンゴに悪影響を与えず、皮膚の温度を下げる冷却効果もあることを確認したと発表した。研究成果は学術誌Advanced Functional Materialsに掲載された。

生の花粉と瓶に入った花粉ベースの日焼け止めを持つNTU材料科学工学部のチョ・ナムジュン(Cho Nam-Joon)教授(右)と研究チームメンバーら
(出典:NTU)

市販の日焼け止めに使用される化学物質の多くは海洋生物、特にサンゴに有害であることが知られている。毎年、人々が海で洗い流したり、排水から流入したりすることで推定6000~14000トンの日焼け止めが海に流れ込んでいるとされる。今回開発した花粉ベースの日焼け止めは、化学フィルターや酸化チタンなどを含む従来型の日焼け止めがサンゴを2日で白化させ、6日目には死滅させたのに対し、花粉ベースの日焼け止めは60日間影響を与えなかった。

NTU材料科学工学部のチョ・ナムジュン(Cho Nam-Joon)教授らの研究チームは、強力な化学薬品や高熱を使わない独自の水ベースのプロセスで加工して、花粉の内容物を取り除き、スキンケア製品に使用されるものと同様のマイクロゲル製剤に変換する技術を確立した。これにより皮膚に塗布可能な花粉ベースのゲル状日焼け止めが実現した。動物実験ではツバキとヒマワリ花粉のゲルが紫外線を効果的に遮断し、細胞損傷や炎症も軽減した。ツバキ花粉は特に高い性能を示し、日焼け防止指数(SPF)は約30と評価された。また模擬日光下では皮膚温度を5℃低く保ち、使用者の快適性と健康維持に資する可能性が示された。

同教授は「花粉は本来、紫外線に耐性があることが分かっています。花粉の殻は、太陽光を含む過酷な環境条件から内部の物質を守る必要があるからです。私たちは、人体へのアレルギーを起こさず、環境にも優しい、手頃な価格で効果的な天然日焼け止めを開発したいと考え、現実的なソリューションを開発しました」と説明した。自家受粉花であるツバキの花粉は一般的にアレルギーを起こしにくいと考えられている。

研究チームはNTUイノベーションおよび起業家精神イニシアチブの支援を受けており、技術の拡大を検討している。大学のイノベーション・エンタープライズ企業であるNTUitive社を通じて技術開示が申請されており、チームは業界パートナーと協力してこの技術の商業化を目指している。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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