シンガポール国立大学(NUS)は10月2日、氷に少量のアミノ酸を混ぜて凍らせるだけでメタンガスを急速に閉じ込め貯蔵し、融解させることで取り出しも可能、そしてそれ自体も再利用可能なアミノ酸修飾氷を開発したと発表した。研究成果は学術誌Nature Communicationsに掲載された。

NUSのプラヴィーン・リンガ教授(右)率いる研究チームは、氷に単純なアミノ酸を加えることで、驚くべき速さでメタンガスを捕捉することを発見
天然ガスは高圧容器や-162℃での液化が主な貯蔵法だが、どちらもエネルギーを大量に消費しコストも高い。氷状の結晶格子にガスを閉じ込めるガスハイドレートは代替手段として注目される一方、形成が遅いことが実装の障害となってきた。
NUSデザイン工学部化学・生体分子工学科のプラヴィーン・リンガ(Praveen Linga)教授らは、水に疎水性アミノ酸を微量添加して凍結したアミノ酸修飾氷を用い、氷をメタンにさらすだけで迅速にハイドレート化させることに成功した。トリプトファンなどの疎水性アミノ酸が氷表面に微小な液相層を作り、ハイドレートの結晶成長を促す多孔質構造が形成されることによりガス捕捉が加速する。実験では、貯蔵容量の90%に達するまでに約2分強と、従来のシステムでは数時間かかったのと比較すると形成速度は約80倍で、メタン保持量は通常の氷の約30倍に達した。また、親水性アミノ酸は効果が乏しく、メチオニンやロイシンなど疎水性が有効ということも示された。

NUSの研究者らが開発した修飾氷は、固体の「ガスハイドレート」物質へと変化する。この物質は従来の方法と比べて、ほぼ凍結点に近い条件下で、30倍のメタンを保持可能であり、形成速度は80倍近く速い
(提供:いずれもNUS)
本研究はまだ概念実証段階だが、生分解性で環境負荷が小さく、ガス捕捉後に穏やかな加熱でメタンを放出させた溶液を再凍結すれば再利用できる。同教授は「天然ガスとバイオメタンは今日のエネルギーミックスの重要な要素ですが、その貯蔵と輸送は長らく、コストがかさむか、あるいは炭素集約型の方法に依存してきました。私たちが示しているのは、シンプルで生分解性のある経路であり、迅速に作用し、再利用も可能です。これにより、ガス貯蔵はより安全で、より環境に優しく、より適応性の高いものになります」と語った。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部