シンガポールの南洋理工大学(NTU)は10月13日、乳牛の乳房の細菌感染症である牛乳房炎を予防するための新たな抗生物質代替化合物「オリゴイミダゾリウム炭素酸(OIMs)」を開発したと発表した。研究成果は科学誌nature communicationsに掲載された。

牛の乳房の感染を防ぐ安全で持続可能な抗菌化合物(チューブ内の青色染料溶液)の開発に携わったNTUの メアリー・チャン(Mary Chan)教授(左)とMITのポーラ・ハモンド(Paula Hammond)教授(右)。この化合物は乳牛の乳房に塗布されたが、牛乳の品質(チューブ内の白色液体)に影響を与えなかった
(出典:NTU)
牛乳房炎は酪農業界において長年の課題であり、感染による乳量の減少と治療に使われる抗生物質の残留が問題となっていた。さらに、抗生物質耐性菌の拡大も懸念される中、NTUの研究チームは、抗生物質を用いない新しいメカニズムによる感染予防法を開発した。
研究は、NTUシンガポール化学・化学工学・バイオテクノロジー学部のメアリー・チャン(Mary Chan)教授と、NTUリーコンチアン医科大学のケビン・ペテ(Kevin Pethe)教授、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)のポーラ・ハモンド(Paula Hammond)教授およびシンガポールと米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究技術アライアンス(SMART: Singapore-MIT Alliance for Research and Technology)の抗菌薬耐性学際研究グループと共同で行われた。
このOIMsは、細菌感染を防ぐ新たな作用経路を持ち、乳房に直接塗布することで感染を抑制できる。さらに、牛乳中の抗菌成分残留が生じないことも確認されている。研究チームは「OIMsは生分解性で、自然界で無害な分子に分解されるため、既存のヨウ素やクロルヘキシジンを使用する方法よりも環境に優しいと考えられます」と語る。
オーストラリア、ベルギー、マレーシア、ニュージーランドなどの農業関連企業が、この化合物の実用化に関心を示しており、今後は国際的な展開が期待される。MITのハモンド教授は「実験室と現場の両方での初期研究の成功を受け、我々は現在、産業パートナーと緊密に連携し、乳牛における大規模試験へ拡大し、新規抗菌化合物の商業化を目指す計画を進めている」と述べた。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部