2025年11月
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HER2変異肺がんの進行治療に有望な新治療法 シンガポール国立がんセンター

シンガポール国立がんセンター(NCCS)は10月21日、HER2変異を有する進行非小細胞肺がん(NSCLC)に対する経口HER標的チロシンキナーゼ阻害剤セバベルチニブが国際共同臨床試験の結果、治療に良好な反応を示したことを発表した。研究成果は学術誌The New England Journal of Medicineに掲載された。

肺がんは世界で最も致死率の高いがんであり、シンガポールでは、欧米諸国と異なり肺がん患者の半数は喫煙経験がないことが知られている。多くの患者はNSCLCと診断され、これはEGFRやHER2などの遺伝子変異が原因となって引き起こされることがある。このタイプの肺がん患者はプラチナ系化学療法で治療されるが、既存の標的療法では有効性が限定的であるか、重篤な副作用が生じるため、HER2変異型NSCLCにはより精密な治療法が求められている。

本研究では、HER2変異型NSCLC患者に対してセバベルチニブを用いた臨床試験を行った。本試験(SOHO-01)には世界の複数施設から209人が参加し、セバベルチニブ20mgを1日2回投与した。被験者は、既治療だがHER2標的治療歴のない群(D: 81人)、抗体薬物複合体治療歴のある群(E: 55人)、未治療群(F: 73人)に分けられた。

試験の結果、客観的奏効率はD群64%、F群71%と高く、E群は38%だった。奏効期間中央値はD群9.2カ月、E群8.5カ月、F群11カ月。無増悪生存期間中央値はD群8.3カ月、E群5.5カ月だった。副作用としては下痢が最も多く(84~91%)、多くは軽度で用量調整等で管理可能、薬剤関連事象による治療中止は1~5%にとどまった。

本研究の主任著者であるNCCSのダニエル・タン(Daniel Tan)教授は「初のヒト試験で、未治療・既治療の全コホートで有効性を示し、HER2標的治療未経験の患者では64~71%の奏効が得られ、9カ月超持続しました。安全性も概ね管理可能で、治療継続性が保たれました。これは、効果的な治療が困難であったこの患者集団の転帰改善に向け大きな希望を与えてくれます」と述べ期待を示した。

今後は、局所進行・転移性HER2変異NSCLCを対象に初回治療として検証する試験を計画し、異なるタイプのHER2変異型への効果、脳転移への影響、潜在的な耐性機序の解析も進める予定だ。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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