シンガポール国立大学(NUS)は10月25日、熱帯の蝶が季節の気温に応じて翅の眼状紋の大きさを変化させる仕組みとして、DNA上の単純なスイッチが働いていることを明らかにしたと発表した。研究成果は学術誌Nature Ecology & Evolutionに掲載された。
NUS生物科学部のアントニア・モンテイロ(Antónia Monteiro)教授率いる研究チームは、アフリカ産の蝶ビキュルス・アニャナ(Bicyclus anynana)を対象に研究を行った。この蝶は乾季と雨季で羽化時の模様が異なり、雨季には翅の眼状紋が大きく、乾季には小さい。こうした季節的な違いは、生息環境への適応に役立つことが知られている。
チームは翅の模様形成を制御するアンテナペディア(Antp)遺伝子を特定した。この遺伝子は幼虫の飼育温度によって活性が変化し、温度が高いほど強く働く。Antp遺伝子の活性を阻害すると眼状紋が小さくなり、その効果は高温条件でより顕著だった。これにより、Antp遺伝子が季節的な模様変化の主要因であることが示された。
さらにジャノメチョウ科の蝶に特有のDNAスイッチであるプロモーターが発見された。このスイッチは眼状紋の中心細胞でAntp遺伝子を特異的に活性化するものであり、これを無効化すると温度に応じた模様変化が見られなくなった。DNAスイッチが蝶の可塑性進化に寄与してきたことを示す結果である。
本研究の筆頭著者ティアン・シェン(Tian Shen)博士は、「単純な遺伝子スイッチが、多様な昆虫に共通する複雑な環境感受性の基盤となっているのは驚くべきことです。この発見は、こうしたスイッチが生物の適応や進化の過程でどのような役割を果たしてきたのかを探る新たな道を開きます。今後は、気候変動下における保全活動に重要な知見をもたらすでしょう」と述べた。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部