シンガポールの南洋理工大学(NTU)は10月29日、宇宙の暗黒物質(ダークマター)を構成するとされる仮説上の粒子「アクシオン」の性質を模倣する光の挙動を再現できる結晶構造を開発したと発表した。研究成果は学術誌Scienceに掲載された。

NTU物理数学学部(SPMS)のチャン・バイレ(Zhang Baile)教授(中央)
(出典:NTU)
NTUが率いる国際研究チームは、光の粒子である光子が特定の結晶内部で理論上のアクシオンのように振る舞うことを実験的に確認した。アクシオンは、宇宙の物質の約85%を占めるとされる暗黒物質の最有力候補とされており、その実在を示す研究として注目されている。
研究チームは、磁性をもつ層状結晶を人工的に設計し、光子の運動を詳細に観察した。使用されたのは、イットリウム鉄ガーネットという磁気特性と光学特性を併せ持つ人工ガーネット結晶であり、レーダーや通信機器などにも用いられる素材である。この結晶の層を交互に磁化させることで、光子が三次元的な結晶構造の縁に沿って一方向に進む現象が確認された。この挙動は、理論上アクシオンが示す特性と一致している。
本研究を主導したNTU物理数学学部(SPMS)のチャン・バイレ(Zhang Baile)教授は、スイスやスペイン、ドイツ、カナダ、中国の研究機関と連携して実験を行った。同教授は「新たな結晶構造の成果により、将来的にアクシオンの実在を確かめる可能性が高まりました」と述べている。
研究チームは、今後この結晶を利用してアクシオンから変換された光子を強磁場下で検出する実験を進める計画であり、暗黒物質の謎を解く重要な手掛かりとなることが期待される。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部