この記事は3月30日に、NUS Newsに初掲載されました。
シンガポール国立大学(NUS)は3月30日、日常動作中でも心電図(ECG)や血圧を高精度で計測し、疲労状態を判定できるハイドロゲルセンサーシステムを研究者らが開発したと発表した。研究成果は学術誌Nature Sensorsに掲載された。

ホー・ギム・ウェイ(Ho Ghim Wei)教授(左から3人目)と研究チームメンバー
同システムは、皮膚に密着するハイドロゲル材料と人工知能(AI)による信号処理を組み合わせたものである。従来、疲労評価は主観的な自己申告に依存し、断続的でリアルタイム評価に適さないという課題があった。また、ウェアラブル機器では筋活動や身体運動に伴うモーションアーチファクトが心臓や血圧の微弱な信号を覆い隠し、既存の対策も単一のノイズ源や限られた周波数帯域にしか対応できないという限界があった。
こうした課題に対し、NUSデザイン工学部電気・コンピュータ工学科のホー・ギム・ウェイ(Ho Ghim Wei)教授率いる研究チームは、研究員のティアン・グオ(Tian Guo)博士を筆頭著者として、複数の運動ノイズ源を同時に抑制する人工知能(AI)駆動の信号処理と統合したハイドロゲルを用いたセンサー・プラットフォームを開発した。
ハイドロゲル内部では、周期的に配列したナノ粒子が機械振動を吸収し、生体に適合する電解質が低周波の心臓信号を通過させつつ高周波の筋電ノイズを抑制する。さらに機械学習によるノイズ除去を組み合わせることで、動作中でもECGの信号対雑音比は37.36 dB、血圧の測定誤差は3 mmHg程度に抑えられ、臨床用途に適合するISO基準を満たした。これらの性能は市販のスマートウォッチなどのウェアラブル機器を上回り、ECGピーク検出精度も52%から93%へ向上した。

人工知能を搭載した、柔らかく肌のような感触のハイドロゲルセンサー
研究チームは、無線通信機能を備えた柔軟なウェアラブル型システムを構築し、被験者を一定期間継続して観測するとともに、疲労を誘発する運転シミュレーションで検証した。その結果、深層学習により疲労レベルを92%の精度で識別でき、従来手法の64%を大きく上回った。また本技術は、心音や呼吸音、音声、脳波、眼球運動など多様な生体信号にも適用可能であり、日常環境におけるメンタルヘルスの客観的な継続モニタリングへの応用が期待される。同教授は「臨床に有用な生理データと精度要件を明らかにするため、医療分野との連携を進めたい」と述べた。

(提供:いずれもNUS)
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部